迎えに来たヒソカの車に乗って、帰宅。
ただいまーとドアを開けたら、リビングでは快斗が寛いでいた。振り向きもせず、おかえりーと返される。
「快斗、赤井さんに変なこと吹き込むのやめてくれる?」
「変なこと?」
何言ったの、とヒソカが楽しげに快斗を見やる。
変なこととは、言うまでもなく、あの観覧車の天辺付近で赤井さんが言っていたジンクスだ。快斗からメールがきた、とはっきり聞いたからね。犯人はお前だ!
じとっと睨んでいると、当の快斗は漸く振り返った。にひひ、と笑って見せる。
「変なことなんて言ってないよー。ただ、観覧車にまつわる話をメールしただけじゃん?」
「タイミング狙ったくせに」
「えー。でも、やったんでしょ?」
にひひひひひ、と笑う快斗は完全に私で遊んでいる。
やった、とは、観覧車の天辺でキス云々のやつだろう。からかう気満々の顔は、私と赤井さんがジンクス通りにキスしたことを疑っていない。
だが、残念だったな!
「やってないよ」
「え?! なんで!?」
目を見開いた快斗に苦笑するしかない。
なんでそこまで驚くんだか。
そこまで聞いて何の話か察したのか、ヒソカがクスクスと笑い出した。
「セレナと観覧車に乗ったのはスバルだから、かな?」
「正解」
言ってやれば、答えたヒソカの隣で、快斗が「そんなぁ」とうなだれている。
キミは何がしたかったの……。
気を取り直して、買ってきた土産を机の上に並べる。
クッキーやらのお菓子が中心。なるべくパッケージに魚の柄のないものを選んだつもりだ。快斗、魚嫌いだから。
そうそう、忘れずにあのイルカのストラップも並べましたよ。
「おや、可愛いね」
「赤井さんがダーツで取ったんだよ」
「あー、取りそう」
二人がうんうんと頷いている。彼らの中で赤井さんはどんなイメージなのか……まぁでも、なんとなく言いたいことは分かるかな。
イルカは三色あったけど、誰もピンクって柄じゃないよねと青と緑を貰ってきた。青が二つと緑が三つ。
「カイト、イルカはいいのかい?」
「イルカはいい。哺乳類だから」
真顔の返しに苦笑が漏れる。
赤井さんは?と尋ねられたので、仕事に行ったと返しておいた。
ちぇー、なんて言ってる快斗は、一体何を期待してたんでしょうかね。
「……赤井さん、忙しくなるのかな」
ぽつりと呟かれた言葉に反応する。
職業柄か、赤井さんは一度仕事に入ると数日家を空けることも多い。いつになったら終わり、なんて明確な期限がないことが多いし。
快斗は今回の、キュラソーの件は知らないはずだが、何か感じ取っているのだろう。
「……このゴールデンウイーク中には終わるんじゃないかな」
「セレナ、何か知ってるの?」
「まぁ、ちょっとね」
昨夜のカーチェイスと、今日の東都水族館で出会った記憶喪失の女性について、軽く説明。
女性=カーチェイスしてた人だと思う、とは言ったが、組織の関係者ってところは流石にぼかしておいた。
「そうだ。その女性のことで、ヒソカに頼みがあるんだけど」
「ボク?」
「明日、車出して欲しいんだよね」
観覧車で倒れた彼女が搬送された病院へ行きたいのだと伝えると、軽くオッケーの返事。
探偵団の子どもたちの足になってくれるそうだ。
「でも、子どもたち大丈夫なの? カーチェイスしてた人なんでしょ?」
快斗の心配も、尤もだろう。
でも、今の彼女は記憶がないらしいし、何よりあの子たちが見舞いに行きたがるほど懐いている。大丈夫でしょ。
まぁ近い内に事件は起こると思うけどね!
水族館や観覧車の爆発とかそういう系のね!
「大丈夫だと思うよ」
「ふぅん……ま、セレナが一緒なら平気か」
どんな信頼だ。
言葉にせずに思いを込めて視線を送れば、にこっと笑顔を返された。何故だ。