どうして、こうなった。
燦々と輝く太陽。
その光を反射して輝く海。
爽やかな風が心地よい、南国の島。
「博士〜、アローラ!」
「アローラ! みんな揃っているね!」
上半身裸に白衣を纏い、快活に笑う男━━ククイ博士。
大きく手を振る彼に、負けじと振り返すのは快斗だ。それを見守るヒソカと、赤井さん。そしてうなだれる私。
「セレナ、細かいことを気にしても仕方ないよ?」
「細かくない……」
全然、これっぽっちも、細かくない!
気付いたら南の島ですよ?
しかもただの南の島じゃなくて、ボールに入れたらポケットに入っちゃうモンスター略してポケットモンスター更に略してポケモンの世界ですよ?!
どこが細かいの?!
「俺たちからしたら、今更だな」
「そーそー! セレナとヒソカの世界があるんだから、ポケモンの世界もあるよね!」
順応が早いね君たちは……!
訳も分からず別世界に放り込まれた私たちだが、まぁ、四人一緒だったことは幸いか。
しかもポケモン世界。
ハンター世界のような直接生命を脅かすような驚異はない……はず。
「さぁ! 君たちの旅のパートナーを選ぶ時間だよ!」
二カッと笑ったククイ博士。
ここはアローラ地方、メレメレ島。旅の始まりの場所。
新米トレーナーは、ここで博士から最初の相棒をもらい、旅立つらしい。何の因果か私たちもそれに倣っている。
目の前に並べられた、三つの紅白ボール。
三つ。
「……あの、博士?」
「なんだい?」
「三つしかないんですけど」
「そりゃあね! 御三家ってやつだから、三匹だよね!」
誰か、一人、余る。
無言のまま視線を交わしあう私たちを余所に、博士はポイポイポイッとボールを投げた。
光と共に現れる、三匹のポケモン。
「青いアシカと、赤い猫と、緑の梟か」
「赤井さん……」
ホー、と観察する彼に、がっくり。
なんで貴方、冷静なの……。
「誰がどの子か、どうやって決め━━っわ!?」
快斗が言い終わる前に、梟━━モクローが、その頭に飛び乗った。
感触を確かめるようにタシタシと足踏みして、気に入ったとばかりに腰を下ろす。表情に擬音をつけるとすれば、むふ、だろうか。
「どうやら、カイトくんはモクローに気に入られたようだね」
「じゃあ、この子、俺のパートナーだね!」
へへ、と笑う快斗。かわいい。
さてこれで残りは二匹か、と思ったら。飛んでいった梟━━モクローにつられたのか、後の二匹も動き出していた。
「ん?」
「おや」
赤い猫━━ニャビーが、ぴょんと飛んで赤井さんの肩へ。
青いアシカ━━アシマリが、スリスリとヒソカの足に擦りよる。
なんか……目が、ハートのような……?
「ニャビーはシューイチが、アシマリはヒソカが気に入ったみたいだね!」
言われなくても分かるわ……!
くっそうお前ら全員メスか?!
最初の三匹って確かメスの確率低かったんじゃありませんでした?!
抱え上げられてヒソカの腕の中になったアシマリは、うっとりとした表情だ。
赤井さんに片手で撫でられているニャビーは、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしている。
イケメンってずるい。
「私もポケモン欲しい……」
ぽつりと呟いた私に渡されたのは、空のモンスターボール。
はいこれ、って何?!
自分で捕まえろってこと?!
動揺して思わず落としたよね!
コロコロと転がったボールは、草むらの前でぴたりと止まった。
何してんのー、と快斗が拾おうとした、その時。
ガサリと草を揺らして現れたのは、ピンクの生き物だった。
「えっ……えっ!?」
ボールを目の前に、ぼんやりした眼でコテンと首を傾げたその子。
何を思ったのか鼻先でちょんとボールをつつき……そのまま、ボールに吸い込まれていった。
ちょ、え、ええええええ!?
「……ゲット、か?」
「良かったね、セレナ」
キミにもパートナーができたよ、と笑うヒソカ。
目を見開くしかありませんよね?!
「驚いたなぁ、ヤドンが自らボールに入るなんて。これはもう、ポケモンに選ばれた究極の形かな?」
そう、ピンクの生き物はヤドン。野生のヤドン……。
はっはっは!と笑うククイ博士ですけど、えっ待って、そんな笑い話で済む現象なの今の?!
最初の一匹が自分からボールに入っちゃったヤドンって有りなの?!
「ヤドンって水タイプでしょ。ボクのこの子も水タイプだから、お揃いだ」
「さすがは親子、と言ったところか」
そういう問題じゃない……!
頭を抱える私を余所に、ボールを拾い上げた快斗が笑顔で渡してくれる。
「この子、ちょっと紫っぽかったよね?」
「……なんかもう衝撃過ぎて色まで見てなかったけど……そうだった?」
「確かに、少し紫がかっていたようだが」
「色違いじゃん!」
すごいね!と、手のひらに落とされるボール。
確かに、色違いってレアだけどさ。
複雑な思いで受け取る。
君はどうして勝手にボール入っちゃったのと呟けば、ボールの中のヤドンがのっそりと首を傾げた、気がした。
ボールから出してみると、確かに、ヤドンは少し紫っぽいような気がした。
はっきりと違うわけじゃないけど、これも色違いなのかね。
「君から来ちゃったんだからね。君は今日から、私のヤドンです」
言い聞かせるように、しゃがんで声を掛ける。
こちらをじっと見上げる丸い眼。
じー……コテン。首を傾げた。
ああああ通じてない……!
「お互いの親睦を深めるために、バトルでもやってみようか!」
ククイ博士の提案に、バッと手を挙げたのは快斗。
「はいはーい、俺やりたい!」
「相手はどうしよう。四人だから、二人ずつやろうよ」
「じゃあ、ボクがお相手しようかな?」
にこやかに笑ったヒソカが、アシマリを腕に快斗と向き合った。
モクロー対アシマリか。タイプ相性でいえば、モクローの方が有利だけど……なんだろう、ヒソカのアシマリが負けるところが想像できない。
こりゃヒソカの勝ちかな、と隣に来た赤井さんに話していると、不意に付近が騒がしくなる。
なんだ?
「お前たち、いいポケモン持ってんじゃないスカ!」
「俺たちが貰ってやるから、さっさと寄越しな!」
「あ、あれはスカル団?!」
黒地に白のエックスのような柄をしたお揃いのタンクトップ。
白い帽子は、あれはドクロのイメージ……?
スカル団。他人のポケモンを奪ったり、試練の場を荒らしたりと様々な悪事を働くならず者集団らしい。アローラのR団ってことか。
「そこのお前! そのヤドン、色違いだな!?」
「レアじゃないスカ!」
ビッと指を差されて、抱えていたヤドンを見下ろす。よくこの微妙な色違いが分かりましたね。
だらんとした身体、結構重いんだよこの子。
スカスカ妙な敬語を使うなぁ、と思っていたら、スカル団のスカらしい。スカル団を記憶に残すための語尾なんだって。涙ぐましいね?
「痛い目に遭いたくなかったら、さっさとポケモンを寄越せ!」
不遜な物言いに、赤井さんの片眉が上がる。
何か言おうとする彼を制して、私はよいしょとヤドンを下ろした。いい加減重かった。
「セレナ?」
「ここはポケモンの世界。だったら、ポケモンバトルしようよ」
ね、と見上げると、ぱちりと瞬く翡翠の瞳。
そりゃあね、貴方も私も、あの程度の下っ端は一瞬で制圧できると思いますけどね。
せっかくポケモンもいるんだし!
私の意図するところを正確に読みとってくれたらしく、一転して、優しく笑った赤井さん。
そうだな、と呟いて、グルルと唸るニャビーを地面に下ろした。ニャビー、やる気満々。
「泣いても知らねーぞ!」
「そっちがね」
二対二で始まるタッグバトル。
相手が繰り出したのは、スリープとラッタ。
え、なんか私の知ってるラッタじゃない……黒いし……色違いか?
んん、アローラ地方特有の姿? ほー、なるほど……。
首を傾げた私を見てか、ククイ博士が解説を入れてくれた。
っていうか、ククイ博士がバトルしてこの人たち追っ払ってくれたらいいんじゃないの?
「行け、ニャビー」
「ヤドン、いっておいで」
私を見上げていたヤドンは、きょとんと前方を見て、コテン、と首を傾げた。
ああああこの子分かってない……!
隣で赤井さんが苦笑している。
大丈夫かなぁ、と思ったところで、急にヤドンがぱかりと口を開けた。
あくびか?
って、ちょっと?!
「れ、れいとうビーム……」
口から飛び出したまさかのれいとうビームに、唖然とするしかない。
カチカチに凍ったラッタが、まるで氷の彫像のようだ。うっそん……。
ぱく、と口を閉じたヤドンが、これでいい?とばかりに再度見上げてくる。
お、おう……。
「お、覚えてろよぉおおお!」
私がヤドンと見つめ合っている内に、スリープは赤井さんのニャビーが蹴散らしたらしい。
スカル団は叫びながら去っていった。
少し傷ついたニャビーを腕に、赤井さんは労るようにその背を撫でている。
私もしゃがんで、ヤドンを撫でた。ちょっと目を細めるヤドン。
「セレナのヤドン、ちょー強ぇ……」
こっちのことなんてお構いなしに初バトルを続けていた快斗とヒソカがやってくる。終わったのか。
結果は……ヒソカのアシマリの勝ちだったようだね。得意げにしているアシマリが可愛い。
「すごい技だったね。ボクのアシマリにも覚えさせたいなァ」
「れいとうビームって、レベル技じゃなかった気がするんだけど……君はどこで覚えたの……?」
問いかければ、コテンと首を傾げるヤドン。
君、分かってやってるんだろう!
段々あざとく見えてきたわ可愛いな!
その後、ヤドンのレベルが判明して二度見。なんでお前野生だったんだよ?!
「スーパーヤドンかな?」
「ヤドン様だ……」
「ヤドン様……」
あれ、なんかしっくりくる。
ヤドン様……ヤドさまにしよう。
「改めてよろしく、ヤドさま」
ちょん、とつつくと、ヤドさまは嬉しげに、ぱたりと尻尾を振ったのだった。
>>ぼうけん は つづく !(?)