ダーツの矢は三本とも的のど真ん中。150点だ。
すごいすごいと誉めてくれる店のお兄さんから、景品のストラップを貰う。50点で一個なので、三つも貰ってしまった。
私と沖矢さんで一個ずつしても、一個余るね。



「どうしよう。快斗のお土産にしようか」



お土産欲しがってたし、と言えば、いいですねと同意される。
欲しがってたのは土産話だけど、まぁいいか。もともと何かしらお土産は買うつもりだったから、プラスしてあげよう。

よし、と決めて振り返ると、沖矢さんがまたダーツの矢を三本手にしていた。



「またやるの?」



もう三個もあるのに。

風を切って投げられた一投目は、またもや見事に真ん中に突き刺さった。
おいだから注目。



「ヒソカの分がないでしょう?」



仲間外れは拗ねそうですからね、と笑う沖矢さん。
拗ね……る、か? 拗ねるかどうかは分からないが、「ボクの分は無いの?」と聞いてくるのは確実だな。

生温い目になって見つめる先で、二投目。真ん中。おいこら。



「お兄さん何者なんですか?!」



ほらー!
変に注目されてしまっては、沖矢さんになってる意味ないでしょーが!
ギロリと睨むと、流石に反省したのか沖矢さんの眉が下がる。



「外すのが難しいんだが……」



小さな小さな声だった。私にしか聞こえていないだろう。
うん、分かる。つい当たっちゃうよね。凄腕のスナイパーさんともなれば、こんなミニゲーム簡単ですよね。

それでもどうにか、三投目は中心から外すことに成功したようだ。これを成功と言っていいのかは知らないが。



「いやぁ惜しかったですねぇ!」



絶賛してくれるお兄さんに手を振って、ゲームコーナーを後にした。結局、イルカのストラップは五つ。
一つ足らないどころか一つ余ったんですけど……。
そんなことを思っていたら、不意に辺りがざわめいた。



「騒がしいですね」



気付いた沖矢さんが警戒するように周囲を見渡す。
同じく周囲を観察しながら、ざわめきの言葉に耳を澄ませた。
子どもが、女の人が、など聞こえた情報を繋ぎ合わせれば、なんとなく事態が把握できてくる。



「観覧車を待ってた子どもが、高いところから落ちたんだって。女の人が助けたから無事だったみたい」

「助けたのに落ちたんですか?」

「んー……これ以上詳しくは分かんないな。でも無事なのは確かっぽいよ」



現に、騒ぎは徐々に終息している。観覧車も止まったりはしないようだ。
何があったのか分からないけど、まぁ無事なのは何より。一瞬、大事件始まったか?!と構えてしまったよ。何事もなくてよかった。

未だざわめきは残るものの、観覧車を待つ列は進んでいる。
比較的空いているようだったので、そのまま最後尾へと並んだ。

それほど待つこともなく、順番が回ってくる。おお、これはラッキーだね。タイミングよかったみたい。



「いい景色だねぇ」

「ええ、本当に」



段々と高くなるゴンドラ。見晴らしがいい。

何気なく駐車場の方へ目をやって、視線が釘付け。
あ、あれは……名探偵、では……!?
近くに救急車も見えることから、先ほどの落ちた子どもってやつは、名探偵のお友達の線が濃厚なのかな……。

やっぱり始まってんじゃないか、大事件。

大丈夫なんだろうなこの観覧車。思わず遠い目をしていると、不意に沖矢さんに手招きされた。
心配しても仕方がないかと、名探偵から視線を無理矢理外して、沖矢さんに向き直る。
ぽんぽんと隣に座るよう促され、素直に腰を下ろした。



「なに?」



答える言葉はない。
代わりというように手を取られ、指先に口付けられた。

なに?!



「……何なの」

「快斗から、メールが来ましてね」



観覧車の頂上でキスをしたカップルは永遠に別れない。
ありきたりなジンクスだ。
快斗が何を思ってそんなことを赤井さんにメールしたのかは知らないが、ベタなことを。

っていうか、



「キスじゃないじゃん」



キスはキスでも、指先へのそれはカウントされるのだろうか。
快斗の指示を実行するのなら、なぜそこに?

純粋に疑問に思って首を傾げると、沖矢さんの目がそっと開かれた。



「セレナにキスするのが、“俺”じゃないのは気に食わないんでね」



翡翠の瞳に見つめられる。
全く、この男は、真顔で何を言っているのか。



「……馬鹿なの?」

「おや、顔が赤いですよ」

「ゴンドラの中が! 暑いの!」



思いっきり顔を背けてやれば、楽しげにクツクツと笑われた。
くっそぉぉぉ!



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