「たっだいまー」
明るい声が聞こえて、私の口からは溜め息が漏れた。
夜の風がカーテンを揺らす中、男の姿が現れる。白衣に身を包んだその男は、世間で怪盗紳士と騒がれる通称怪盗キッド、本人である。
「コラ、ちゃんと玄関から入っておいで」
私の目の前で紅茶を飲んでいた男が、キッドを窘める。
突っ込みどころはそこじゃねぇよ、と声を大にして叫びたかったが、時間も時間。
ごめーん、と笑っているキッドに、呆れた視線はそのままに告げた。
「ここはあんたの家じゃないわよ」
そう、ここはキッドのアジトでも何でもない。
歴とした、私、セレナの自宅である。
何故かとんでもない男が一緒に住んではいるが、私の家である事実には違いないのだ。
「そんなこと言わないでよセレナー。頑張ってきたカイトくんを労ってよー!」
「事実を言ったまでよ」
「まぁまぁ。カイト、セレナも心配してたんだよ。素直じゃないだけさ」
「ハッ倒すわよヒソカ」
渾身の右ストレートはあっさり交わされたが、当たるとも思っていなかったので問題ない。
むしろ当たったら心配する。
何しろヒソカだ。そう、ヒソカなのだ。
「もう一人帰ってきたみたいだよ」
「なんだ、にぎやかだな」
ヒソカが言い終わるや否や、男が一人、部屋に現れた。
こちらはキッドとは違い、堂々と玄関からのお越しである。
「やあ、シューイチ。仕事は終わったのかい?」
「粗方、な。快斗も、もう帰ってたのか。どうだった?」
「バッチリ!」
和やかに会話する男三人。
私はじと目をそのままに、最後に訪れた男に声をかける。
「赤井さん、何か言うことは?」
「ん、あぁ……ただいま」
だからおまえ等の家じゃないと言ってるだろーが!
今度こそ、私の叫び声が響いた。
私、セレナはハンターだ。
日本で女子高生をしていたはずだったのだが、気付けばハンター世界でそれなりの地位を築いており、更に気付けばヒソカを拾って育てていた。
あっれぇ?状態である。
スリルとショックとサスペンスに飽き飽きした私は、平穏な女子高生生活をやり直したい一心で、念の力に物を言わせて異次元を繋いでみた。
何を言っているかよくわからないかも知れないが、私もよくわかっていない。
やってみたら出来たんだもの。
日本、には繋がった。ただ、私のいた世界じゃなかった。
「快斗、そろそろ着替えて、寝る支度をしなさい。明日も学校だろう」
「はいはーい。赤井さんは? 明日も仕事?」
「明日はオフだ。久々に、な」
年がら年中事件が起こる町、米花町。
まぁ、ハンター世界より平和だと妥協したのは記憶に新しい。
何故かついてきた奇術師ヒソカ。
何故か懐いた怪盗キッドこと、黒羽快斗。
何故か入り浸るFBI赤井秀一。
以上でお送りするのが、私の近況です。
どうしてこうなった。