翌朝。
赤井さんは、起きたらばっちり沖矢さんだった。
おかしい……昨夜、先に体力切らして落ちたのは赤井さんだったのに……なんという早起き。驚きのタフさ。
しかも、いい匂いがする。朝ごはんまで作ってくれている……だと……!?



「……なんか、ごめん」

「何がです?」



ゆっくり首を振って、おはよう、と言い直した。
おはようございます、と沖矢さんモードで応えた彼が、コトンと目の前に湯気の立つマグカップを置いてくれる。
中身はカフェオレ。至れり尽くせりか。



「サンドイッチだ」



どこぞのカフェかと思うくらい、盛りつけも完璧だった。この人凝り性なんだよな。
こんな風にしてある、ってことは、買ってきたのではなく、作ってくれたんだろう。
……負けてるな、いろいろ……女子力とか……。

いただきます、と手を合わせてから、あむっと一口。美味しい。
あむあむと食べていると、ふと感じる視線。



「……なに?」

「お味は?」

「美味しい」



正直に感想を伝えると、いつの間にか正面に座っていた沖矢さんは満足そうに笑った。
手を合わせていただきますと呟いて、自分も朝食に手をつけ始める。

うちの子は皆、“いただきます”しますよ。というか、させます。ヒソカも快斗も、もちろん赤井さんも。うちでご飯食べるなら絶対です。

そんなことを考えていると、沖矢さんが「ふむ」と小さく唸った。



「少し塩が足らないか……?」



この卵サンドのこと?
美味しいよ?

赤井さん口調に戻るほど真剣に考えている姿に首を傾げる。なんなの、急に料理に目覚めたの?



「この間、ポアロのサンドイッチが美味しいと言っていたでしょう?」

「あぁ、安室さんのハムサンド」



特段変わった材料を使っている訳でもないのに、安室さんの作るサンドイッチ美味しいんだよね。
初めて食べたときはちょっとした衝撃だった。何の気なしに頼んで食べたら美味しいんだもん。



「彼に遅れを取るわけにはいかないのでね」



……何を張り合ってんだアンタは。
思わず目が据わった私は悪くない。

頬張ったサンドイッチは美味しい、それだけだ。

ぱっぱと身支度を整えて、お出かけ。
幸いにも道はそれほど混んでいなくて、ほぼ計画通りのスケジュールで移動することができた。



「快斗も来ればよかったのにねぇ」



東都水族館に行くけどどうする?とラインしたのだが、一瞬で「行ってらっしゃい!」とうさぎのスタンプが返って来ましたよ。なんでウサギ。可愛いからいいけど。
その後、お土産話ちょーだい!とも。話でいいのか。
そういえばあの子、魚嫌いだったっけ。

おかげで二人です。



「今日、本当によかったの?」



あんな大惨事になったというのに、どのニュースを見ても詳しい情報は出てこない。
現在調査中です、となっているが、恐らく調査結果が報道されることはないのだろう。
権力が、えいっ!ですから。



「構いませんよ。彼女も見つかっていませんしね。今、我々に出来ることはあまりありません」

「そうかもしれないけど……」

「今は、セレナさんとのデートの方が大切ですから」



ね、と同意を求められて渋面。それでいいのかアメリカのおまわりさん。

とはいえ、来たからには楽しまなければ勿体ない。

まずはリニューアルした水族館。
一通り見て回って、イルカショーも見て、満喫した。
昼食を取って、次は大きな観覧車。シンガポールにあるよね、ああいうやつ。ここのは二重だけど。

向かう途中、ゲームコーナーに差し掛かった。ボール当てや輪投げなんかのミニゲームで、設定された点を上回れば景品が貰えるみたいだ。
何の気なしに眺めていたら、ふと目に入った一画。



「ダーツか……」



矢を三本投げて、50点になればイルカのストラップが貰えるらしい。
『本日の最高得点』と掲げられたボードには、でかでかと150点との表示があった。



「150って。満点じゃん」

「なかなかの腕前の方ですね」



すごいねー、なんて話していたら、係のお兄さんと目があった。爽やかに笑いかけられる。



「そこのお兄さん、お姉さん!デートの記念に1ゲーム、いかがですか?」

「……だそうですよ?」



笑いながら見上げれば、沖矢さんも楽しげに口角を上げた。
それは頑張らないとね、なんて言いながら、お兄さんから矢を受け取る。

構えが……構えがプロっぽい……。なんのプロかと言われるとあれだが、とにかく様になっている。
ヒュッと風を切って飛んだ一本目は、綺麗に真ん中に突き刺さった。



「お見事」



続いて二投目。真ん中……って、ちょっと。



「お兄さんすごいなぁ!」



驚いて声を上げる店のお兄さん。
あと一本ですよーとの声を受けながら、三本目を構える脇腹をちょんちょんとつついた。



「何です?」

「何に張り合ってるの……」



あんまりやると目立つでしょ、と小声で囁く。
いくら沖矢さんの姿といえど、下手に注目を集めるのは宜しくない。



「まあ、そうですね。仕方ない」



はい、と渡されたダーツ。
え、仕方ないってなに、私にやれってこと?

店のお兄さんに「お姉さんがんばってー」なんて言われてしまっては、もう引けない。
もー!



「あ」

「おめでとうございます!いやぁお姉さんも上手いですねー!」



隣の店の係さんにも拍手をされて、曖昧に笑うしかない。
つい何も考えず投げてしまったよね……的が動かないんだもん!簡単だもん!



「目立つのはよくないのでは?」

「……すいませんね」



戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -