「待って、ヒソカ」



今にも壁をぶち開けようとオーラを練るヒソカを呼び止めた。
小首を傾げてこちらを見るので、軽く言い放つ。



「私のこと落としてくれる?」

「……なんで?」



たっぷり数秒は固まったヒソカがこぼした声が、あまりにも疑問に満ち溢れていたものだから、何だか可笑しかった。

落とす、とは、探偵くんのように気絶させるという意味だ。
何も考えずにお願いした訳じゃないよ。もちろん理由はある。



「さっき言った脱出法で外に出たとして、アンタはともかく、女子高生がピンピンしてたら変でしょ?」

「そう?」

「そうなのよ」



普通に考えて、だ。
消火のために水が降ってきた時点で、普通の女子高生は気絶しているべきだと思う。蘭ちゃんみたいに。
崩落した鍾乳洞から無傷で脱出!なんて、そんな超人みたいに注目されるのも嫌だしね。
ヒソカみたいな青年ならともかく、私はここらで意識を失っておくべきだろう。



「んー……分かったよ」



気乗りしないらしいヒソカに、今度は私が首を傾げる。
目で話せと訴えるけど、目の前の奇術師は苦笑いするだけで、理由を話す気はないようだ。ま、いいけど。



「じゃあ後よろしく」

「はいはい」



探偵くんをそっと地面に寝かし、くるりと後ろを向く。
ふっと全身の力を抜けば、首もとに正確な一撃が入った。崩れる身体は、途中で温かな腕に抱き留められる。



「ボクが何かするとは思わないのかなァ、貴女は」



うっすら聞こえた呆れたような声。

はぁー?
今更そんなこと考えるもんですか。誰が育てたと思ってんだ。

指先に温もりを感じたのを最後に、意識は暗転した。









目が覚めたら、事態は収束していた。
ぬくい、と思ってぼんやり目を開けて初めて、自分が誰かの腕の中にいることに気付く。

身じろぐと、その人物がほっと息を吐いたのが分かった。



「起きたのか」



沖矢さんだった。
っていうか何か顔が近い。



「あれ、もう終わった?」

「あぁ、覚えていないのか?」

「口調、口調」

「……覚えていないんですか?」



にこっと笑われた。怖!

そこでようやく状況を把握する。いわゆるお姫様抱っこをされていました。



「向日葵は?」

「無事ですよ。あそこです」



沖矢さんが視線を向ける先に、防火防水ケースに入った二枚目の向日葵━━芦屋の向日葵があった。
どうやら、脱出は無事成功したようだ。ヒソカが上手くやったらしいね。

探偵くんは毛利探偵が抱っこしてるけど、まだ意識戻ってないのかな?
蘭ちゃんが心配そうに覗き込んでいる。よかった、蘭ちゃんも無事だった。ってことは、あの子も無事ってことだね。

ヒソカは少し離れたところで相談役たちに囲まれていた。
こちらに気付き、寄ってくる。



「セレナ、起きたんだね」

「んー」

「皆そろそろ引き上げるみたいだよ。あのちっちゃい子のこともあるし、話とかはまた今度だって」



ヒソカの話に頷いて、了解を伝える。

今頃、キッドと寺井さんは合流しているかな?
後で電話しよう。無事も確認したいし。
向日葵は守ったし、死人も出てないし、一件落着!

よぉし、今夜は打ち上げですなー!



「セレナ、帰ったらちょっと、お話ししましょうね?」



……忘れてた!

疑問符ついてるけどこれ強制お説教パターンじゃん? 
穏やかな声なのが逆に怖い。
っていうか全然下ろしてくれないんだけど、え、待って家までこのままなの?
逃がさないつもりなの?

詰んだ……!



Fin

後日、赤井さんによるマジ説教を受けて憔悴の私の元に、寺井さんから焼き菓子詰め合わせ(手作り)が届いた。
今回の御礼とお詫びらしい。寺井さん大好き……!



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