「蘭だけなら抱えて飛べるのかって聞いてんだ!」
小さな名探偵が声を荒げる。
推理ショーを終えた彼の元に戻ったキッドが、エレベーターシャフトからの脱出が難しい旨を告げた。
キッドの当初の逃走ルートは、予め場所を把握していた鍾乳洞の穴だ。ワイヤー銃とハンググライダーを駆使した脱出法だね。
ここに来るまでに、「本当はどうするつもりだったんだ?」とでも聞かれ、素直に答えていたんだろう。
「……飛べる。まあ、この気圧の下がった洞窟内で、障害物を避けながらになると━━保証はねぇがな!」
轟音と、衝撃。
なに!? もう崩れた!?
頭上から降り注ぐ瓦礫の中、あの子たちが落ちていく。
「蘭を、頼んだぞ!」
蘭ちゃんの腕を取った探偵くんが、その身をキッドに向かって振り投げた。
なんとかキャッチしたキッドが、瓦礫を避けながらハンググライダーを開く。
━━仕方ないな。
こうなったらキッドは計画通り、あっちから脱出してもらおう。
さて探偵くんは、と目線を戻した時だった。
当たりどころが悪かったのか。大きめの瓦礫をその身に受けた小さな身体は、力なく落ちていく。
やっべぇ!
咄嗟に飛び出した私は、降り注ぐ瓦礫たちを足場に探偵くんに駆け寄る。
力ない身体を捕まえると、右腕を高く伸ばした。
伸ばした腕に、ヒソカの念が絡みつく。
打ち合わせた訳ではないが、これくらいのコンビネーションは出来ますよ。
伊達に一緒にいませんからね。
そのまま引き上げられて一息。
ギリギリ残った足場で、崩れていく美術館……だったものを見つめながら、探偵くんを抱え直した。
「どうしよっか?」
なぜそんなに楽しそうなんだヒソカよ……。
パチンとウインクしながらこちらを見る彼が胡散臭い。
どうしようも何も、ねぇ?
腕の中の名探偵はピクリともしない。大丈夫かなーこの子。
「鉄筋が残ってるのは幸いよね」
崩落も収まってきた。
何とか残った鉄筋の柱。これを足場に上っていけば、地上に出られるだろう。
じゃあ行こうか、と軽く飛び上がったヒソカに続いて、難なく地上へと近づいていく。
抱えた探偵くんを落とさないように、それだけ気を配った。
さぁ出るぞ、とそこまで来て、前を行くヒソカが足を止める。
「なに?」
「ねえ、セレナ。このまま出ていいのかい?」
確かに。
この意識のない探偵くんを抱えて、このままここから出るのは簡単だ。
けれど、何故私たちが美術館に残っていたのか、どうやって脱出したのかは、私たちの力抜きには説明がしにくい。
幸いにも、美術館の中でどうやって動いていたかは誰にも見られていないけれど……
「……やっぱ降りる」
「下に?」
「ここ確か、湖より下にあるはずなのよ。壁ぶち開けて崩落の順序狂わせて、一気に外に出よう」
私の提案に、ヒソカは笑う。
異議はないようだ。
「どうやって説明する?」
「コナンくんが戻ったのを見かけて、気になって戻った。でも火の勢いがすごくて、回り道を探している間に身動きがとれなくなった。崩れたとき、意識のないコナンくんを見つけて保護した。さらに崩れたときに湖とつながったらしく、運良く上がってこれた」
これでどうだ!と言い切ってやると、ヒソカが小さく拍手をくれる。
りょーかい、と笑う彼のことだから、今の話をきっちり覚えただろう。頭のいい子ですからね。
顔を見合わせて、二人でぴょーんと下に降りました。