崩壊寸前のエレベーターシャフトを覗いていると、背後から気配を感じた。
見知った一人分のそれに、その場を動くことなく迎える。
「セレナ!」
「快斗、おつかれ」
わざわざ着替えたのか、キッド姿の快斗。
彼は驚いたように目を見開いていたけど、すぐにその表情を真剣なものへと変える。
うん、状況は分かってるみたいだ。
「探偵くんと蘭ちゃんは?」
「チューブの途中にいる。無線で推理ショーしてるよ。……シャフトは? 上がれそう?」
問いに答える前に、音もなく隣にヒソカが降り立った。
文字通り上から降ってきた男の登場に、快斗の目が丸くなる。
「ひ、ヒソカ、どこから……」
「ちょっと上まで、ね」
「で、どう? 行けそう?」
目が合うと、ヒソカは苦笑した。
「ボクとセレナなら行けるよ」
「やっぱりね……」
「カイトでギリギリ、かな? ボクらが一緒なら行けると思う」
三人で黙り込む。
正直、私とヒソカなら楽勝だ。じゃなきゃこんなとこ残ったり戻ったりしませんよ。
快斗もまぁ、ヒソカが言うように、私たちと一緒ならエレベーターシャフトを登れるだろう。
問題はあとの二人。
「探偵くんと蘭ちゃんかぁ」
「彼女の方は意識ないから、いろいろ見られる心配はないよ」
「いっそ探偵くんを落とすか……?」
もちろん意識の話ですけどね?
快斗も難しい顔をしてるけど、それくらいしかないってことは分かっているのだろう。否定の言葉は出なかった。
「ここ以外に、地上に続いてるのは……」
「向日葵用の脱出シューターがあるよ。見てきたけど、ボクたちは大きさ的に入れなさそうだ」
「子どもの身体なら……探偵くんなら行けるかも、か」
しかしそれも確証がない。
入れたとしても、その先がどうなっているかは分からないのだ。
そんなところに、子どもをやる訳にはいかないよねぇ。
快斗がチラリと背後を気にした。そろそろ、推理ショーが終わる頃か。
地上では犯人━━宮台なつみが捕まっているだろう。
「ボクが行こうか?」
さてどうしようかと改めて頭を寄せ合った時、ヒソカが発言する。
目線で促せば、続けて口を開いた。
「あの小さい子を落としてくればいいんだろう?」
「あ、それ採用なの……」
「……落とした後はどうすんの?」
「三人くらいなら抱えて登れるんじゃない?」
俺も抱えられるんだね、と快斗が苦笑する。
仕方ない、やはりそれしかないか。
そう決意を固めたとき、快斗がふと思いついたように言った。
「ちなみに、名探偵の前に姿現してセレナの力でっていうのは」
「「ヤダ」」
「……だよねー……」
はぁ、と溜め息を吐いた快斗には悪いが、私もヒソカもあの子に念を披露する気はこれっぽっちもない。
今のところ、だけどね。
だって説明しても信じなさそうで面倒だし?
「と、とにかく、俺はいったん名探偵のところへ戻るよ」
「ん。崩落したら拾ってあげるから、あんまり思い詰めないよーに」
「頼りにしてる!」
ニッと笑って、白い怪盗は駆け出した。
洞窟内の気圧が低い。そろそろ本当に危ないな……。
ヒソカと目を見合わせて、私たちもそっと後を追った。