学校帰り、ブルーパロットへ。
怪盗キッドの付き人、寺井さんの経営するビリヤード店だ。
寺井さんって、伝説のハスラーなんだってね。あの人ほんとにすごい人だよ……。

店先の看板はclosedだが、鍵がかかっていないのは知っている。迷いなく扉を開いた。



「こんにちは」

「いらっしゃいませ、セレナ様」



カウンターにいた寺井さんが丁寧に出迎えてくれる。
こんな小娘に敬語なんて使ってもらわなくていいんだけど、一向に止めてくれないのでもう諦めた。

店内に他の客はいない。closedだしね。
壁に飾られた、宝石が散りばめられた“伝説のキュー”が、日の光を浴びて煌めいている。
カウンターに腰掛け、相変わらす綺麗だなーとキューを眺めてから、寺井さんへ視線を戻した。



「快斗は、まだですか?」

「いえ、坊ちゃまでしたら……」

「いるよー!」



声と共に、快斗が店の奥から姿を現した。
その手にはカップが二つ。



「はーい、これセレナのね」



カタ、と目の前に置かれたカップに息が漏れる。
さすが寺井さんのお店、いいカップを使ってるのもそうなんだけど、そこじゃなくて……



「これ、快斗がやったの?」



目の前には緻密なラテアート。
バラとリーフが美しい。すごい。
驚いて快斗を見ると、自慢げに笑っていた。



「だいぶ綺麗に描けるようになってきたよ!」

「最近、これにはまっていらっしゃるんですよ」



寺井さんが苦笑してるってことは、こいつ、大量にエスプレッソとミルクを消費してるな……。
しかし、その練習の成果は出ているだろう。
ブルーパロットの珈琲が美味しいのはわかっている。その上、目でも楽しめるなんて最高ですね!



「あんた、ほんと器用ねぇ……」



感心しながら、カシャ、と一枚。
後でヒソカと赤井さんにも見せてあげよう。



「寺井ちゃんのも綺麗だよ〜」

「私はリーフ程度で……坊ちゃまのように細かくは描けません」



寺井さんが謙遜しながら、どうぞ、と焼き菓子を出してくれた。
見た目でわかる。美味しいやつ。
これもきっと寺井さんお手製なんだよ! 絶対美味しいよ!
前から知ってたけど改めて思った。ブルーパロットいいお店だよ……!



「で、今度の予告なんだけど」



隣に座った快斗が話を切り出す。
そう、私は何もおやつを食べにここにきた訳じゃない……いや、期待してきたことには違いないんだけど。
今日は怪盗キッドの作戦会議です。

当初はねー、ちょこっと協力を頼まれたり、助言したりする程度だったんですけどねー。
今ではもう最初っから普通に会議に参加してる。毎回じゃないけど。



「狙いは前言ってたオパールに決めた。これね」



そう言って、快斗が机に置いたスマホを操作する。写されたのは大きなオパールをあしらったブローチ。



「乙女座の涙、って名前がついてる」

「じゃあ、星座に絡んだ予告にしたいところね」

「そこなんだよ」



ノリで言ってみたのに真顔で返された。
寺井さんも真剣な顔をしている。ええー……?



「……そこなの?」

「だって! 毎回毎回、あの名探偵、めっちゃドヤ顔なんだぜ?!」



解ける程度に作るのも大変だっつーのに!と快斗が盛大に愚痴る。

大変なら毎度毎度、予告なんて出さなければいいのでは……?と思うが、その疑問は胸に秘めておきました。



「と、いうわけでセレナ、一緒に考えよ!」

「えー、私、そういう頭使うの苦手だし……赤井さんに相談したら?」



言ってから思ったが、怪盗が犯行予告についてFBIに相談するなんて、なんとも妙な話だ。日常ですけど。
快斗と寺井さんも同じことを思ったらしく、みんなで苦笑する。

さ、て。たまには、頭使いますかぁ。



戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -