「あっ、来た! 昴おにーさーん! セレナおねーさーん!」
「こっちですよー!」
歩美ちゃんと光彦くんが大きく手を振ってくれたので、こちらも振り返す。
近づけば、元太くんから「おっせぇーぞ!」のお言葉。すいませーん。
向日葵展初日。
鈴木相談役にご招待いただいた私たちは、レイクロック美術館へとやってきた。
初日の今日、開会式を行っている広場には多くの人や報道陣が見られるが、この中で美術館の中に入れるのはほんの一握りだろう。
だって1日100人限定だもんね。
あ、でも関係者とか、私たちみたいな招待客もいるだろうし、初日はぴったり100じゃないのかしら。
「あれ、ヒソカさんは?」
名探偵が首を傾げる。あざとかわいい。
恐らく、園子ちゃん辺りから、ヒソカも招待したと聞いていたのだろう。
一緒じゃないの?と重ねて問いかけられた。
「車を停めていますよ。すぐに来ると思います」
「沖矢さんたち一緒にきたの?」
「ええ」
ほんとはもう一人いますけど!
ヒソカの運転する車で、ヒソカ、私、沖矢さん、そして快斗が変装した工藤新一という四人でここまでやってきた。
車内に工藤くんいるの慣れなかったなぁ。ベースは快斗なんだけどね、髪型とか姿勢とか、あと服装ね。
ちょっと意識するだけでちゃんと工藤新一になるんだもん、すごいよねぇ。
「なーなー、まだかよ?」
「入場始まっちゃいますよ!」
「チケットはあるんだから、急がなくても入れるわよ」
「だってぇ」
子どもたちがウズウズしてる。一番乗りしたいんだろうなぁ。
私たちはヒソカを待ってから行くね、と、みんなとは別行動することにした。
また中でねー、と手を振ってくれた歩美ちゃんに振り返す。
駆けだした子どもたちを、名探偵は苦笑しながら、科学者さんはやれやれと追いかけていた。ご苦労様です。
開会セレモニーが終わり、入場口には列が出来始めていた。眺めながら、一息。
「いよいよですね」
「ねー。さて、どこで仕掛けてきますかねぇ」
沖矢さんと話している内に、列が進み出す。入場が始まったようだ。
「楽しくなりそうな予感がするよね」
歩いてきたヒソカの台詞。
爽やかな笑顔にげんなりした。
「なんだいセレナ、そんな顔して」
「あんたの楽しくなりそう、は信用したくないのよ……縁起が悪い」
「心外だなぁ」
ヒソカの言う「楽しい」は、ヒソカにとっては正しく楽しいことでも、周囲にとって言い換えれば「厄介」だ。
そして悲しいことに、こいつのこういう予感は何故かよく当たる。
ほんと止めてほしい。
「彼は?」
沖矢さんの問いかけに、ヒソカが笑って列を指で示す。
その先に目をやると、列の前の方に、帝丹高校の制服が見えた。
あの後ろ姿は工藤新一……つまり快斗だ。
工藤くんに変装するとき、決まって制服なんだよねぇ。なんでかって、他の工藤くんのファッションがよくわからないからだ。
服の趣味変わった?と怪しまれるより、間違いのない制服で押し通している。
まぁそのおかげで工藤くん、休日でもどんな現場でも制服で登場することになってますけど!
「ボクらも行こっか」
「中入ったらどうする? 快斗が動くまで待ってる?」
「せっかくですから、向日葵の展示を楽しみましょうか」
「賛成」
語尾にハートマークをつけたヒソカは、行こう、と足取り軽く歩き出した。
え、なにあの子、なんか超嬉しそうなんですけど……?
ルンルンなんですけど……?
楽しくなりそうな予感とやらがそんなに待ち遠しいのか、よっぽど向日葵が見たいのか。
首を捻る私は、沖矢さんに促されて足を進めた。