『セレナ様、よろしいでしょうか』



思いがけない相手からの電話に、私は思わず赤井さんと目を見合わせる。
彼のジェスチャーに従い、スマホを机に起き、スピーカーに切り替えた。



「もちろんです、寺井さん。どうしました?」



電話の相手は、寺井さん。
その正体は老人とも女とも言われている、怪盗キッドの手下だ。実態は手下というより、保護者だけど。
快斗の父、盗一さんの付き人だった、私たちの心強い味方である。
寺井さんの淹れてくれるコーヒー美味しいんだよ。



『例のパソコンよりデータをコピーしました。その中に気になる点が……』

「気になる点?」



寺井さんは随分前から、鈴木相談役の屋敷にボディーガード兼エンジニアとして潜入している。
後藤という、屈強な男。キッドに負けず劣らず、寺井さんの変装もすごいんだよ。

ちなみに「坊ちゃまがお世話になっている方だから」と、寺井さんは私に対しても敬語を使ってくれる。
こんな小娘なのにね……申し訳ないが、何度言っても引いてくれないので私が折れた形だ。



『お送りいたします。今はお一人ですか?』

「赤井さんと一緒です。そっちに送ってください」



ちらりと赤井さんを見ると、すでに先ほど閉じたパソコンを立ち上げていた。
カチカチと操作すると、間もなく、寺井さんからデータが送られてくる。

ちなみに、赤井さんのアドレスなんて寺井さんに教えたことはない。
けれどこうしてデータが届く。さて何故でしょう!
気にしても仕方ない。だって怪盗キッドの手下だもの!
赤井さんもその辺りは分かっているのか、特に不思議がってはいなかった。
まあ、捨てアドかもしれないけど。



「これは━━」



赤井さんが厳しい声音で呟く。
送られてきたデータの中には、向日葵展が開催されるレイクロック美術館の見取り図を含め、緻密な犯行計画があった。
すでにここまで準備していた、か。



「これは確実に、初日に仕掛けてくるだろうな」

「うん……」

『私もそう思います。それと、一つご報告が』



寺井さんの話によると、今日の午後、鈴木相談役宛てに届いた小包が突然発火したらしい。
彼の愛犬・ルパンが奪い取るように払ったため、幸いにも相談役に怪我はなかった。
向日葵展に影響が出ることを考え、警察には届け出なかったそうだ。



『セレナ様も、沖矢様とお越しになられるのでしょう。どうぞお気をつけください』



チケットの手配をしてくれたのは寺井さんなのだろう。
最近は鈴木相談役の秘書みたいになっているらしいし、当たり前といえば当たり前か。

向日葵を守りたいと思っている彼は、私たちへの気遣いも忘れない。
ほんとにできた人だよなぁと、笑みが浮かんだ。



「ありがとうございます。あと、ヒソカも行かせてもらえることになりました」

『おや、そうでしたか。では、近々相談役から指示があるでしょうな』



園子ちゃんから相談役に話が行って、相談役から後藤さんに指示が出るはずだ。
寺井さんの声が楽しげになる。味方は多い方がいいし、ね。



「これで堂々と動けるようになったので、少しパターンを練り直します。また連絡しますね」

『かしこまりました。お待ちしております』



通話が切れると、思わずふぅ、と息が漏れた。
やれやれ、ストーリーも佳境ですな。



「快斗とヒソカを呼ぶか。作戦会議だな」

「……なんか赤井さん、楽しそうね?」

「そうか?」



口許に笑みを浮かべながら、レイクロック美術館の見取り図を見る姿。どう見ても楽しそうですよー。
このFBI、ノリノリである。

向日葵展初日は、すぐそこだ。



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