『あんたの分のチケット?』
ダメ元で園子ちゃんに電話をしてみると、きょとんとした声音で聞き返された。
う、やっぱり図々しかった、かな?
『セレナと沖矢さんの分なら、おじさまが用意してたわよ?』
あんたたちもキッドキラーにカウントされてんのかもねー、と続いた明るい声に、がっくりとうなだれた。
確かに前回、向日葵を取り戻した現場にいたことは事実。でも、だからって、そんな普通に招待していただけるとは……。
天文学的確率のプレミアチケットだよ?
「すっごい嬉しいんだけど……いいのかな?」
『いーのいーの、おじさまが好きで用意してるんだから! セレナも向日葵見たかったんでしょ? 丁度良いじゃない』
「うん、じゃあ、ありがたく頂戴するね」
そう答えると、はいよー、と園子ちゃんの明るい笑い声。
気前がいいなぁ。
それから他愛ない話をしていると、ふと、園子ちゃんが声を上げた。
『そうだ、ヒソカさんの分もいる?』
「なにが?」
『チケットよ! 向日葵展の!』
なんと、ヒソカの分も用意してくれると言うのだ。
本当に気前良いな……!
「いいの? ヒソカ、美術館とか好きだから、すごく喜ぶと思う」
『オッケー任せて! イケメンのためならお茶の子さいさいよ!』
お茶の子さいさいって……言葉のチョイス……。
私が苦笑したのが伝わったのか、電話の向こうからは『何よー?』と不満そうな声が聞こえた。
何度も礼を伝えて電話を切り、リビングへと戻る。
そこには、ソファに腰掛けてパソコンをいじる赤井さんの姿。
片手で珈琲を飲みながら、カタカタと何かを打ち込んでいる。お仕事ですかね。
「鈴木相談役、私たちの分もチケット用意してくれてるんだって」
「私たち?」
指でちょいちょいと指示すると、赤井さんが素直に横に移動した。
隙間のできた隣に座ると、彼はパソコンを閉じてこちらを向く。
「私と、沖矢さん」
「沖矢の分も?」
「この前のこともあるしね。キッドキラーにカウントされたんじゃないかって、園子ちゃんが」
「ほー……そうきたか」
赤井さんが、ふっと笑う。
「鈴木相談役の期待に応えるためにも、頑張らないといけませんね?」
「……その顔と声で沖矢さん口調は、ちょっと、やだ……」
正直に言えば、赤井さんは苦笑した。
だって、ねえ? そりゃあ赤井さんと沖矢さんはイコールだけど、顔も声も違うからさ。私も対応分けてるし、ほんと別人みたいな感覚なんだよねぇ。
しかしこの人、ちょくちょく“赤井さん”に戻るんだけど、立場分かってるのかね。
あなた“沖矢さん”でいないといけないのよ? わかってる?
「この口調は気に入りませんか?」
クス、と笑い方まで沖矢にしてるあたり、完全に面白がってるな。
そのまま首を傾げてこちらを窺うからもう、たまったもんじゃない。なんだそのあざとい仕草は!写メりたいでしょーが!なんて言えないので、ジト目で睨んでおいた。
「そんな顔をしないでください」
「じゃあ止めて」
「流石に僕も傷つきますよ?」
「……ほんと止めて……」
苦笑に変わった赤井さんが、クシャ、と私の頭を撫でた。
その場に響いた着信音に、私と赤井さんは顔を見合わせることになる。