向日葵を三億ドルで落札したのは鈴木相談役の意思。
だが、今回の100億円の損失は、キッドの脅迫によるものだ。
優しいあの子が、胸を痛めないはずがない。

あの夜、夜空に舞った無数の紙幣は、警察その他の働きにより、大部分は鈴木相談役の手元に戻った。
ホテル周辺にいたマスコミをはじめ、野次馬たちにも、拾ったら届け出るように通達したものの、何せ一万円札。中にはそのままポケットに突っ込んだ者も多いはず。
私やヒソカ、それに赤井さんも、探して拾ったり返してもらったりと動いてはいるが、全てを取り戻すのは難しいだろう。

決して安い金じゃない。
それでも、笑って向日葵の無事を喜べる彼の相談役には脱帽だ。



「ハズレ、だな」



赤井さんの声に、思考から戻る。
当たり前のようにうちのリビングで寛ぐ彼は、ローテーブルに置いたノートパソコンを弄っていた。
変装も解いているので正しく赤井さんだ。

ハズレって何が、とのぞき込むと、そこには先ほどまで考えていた鈴木相談役の姿。



「何? これ」

「例の向日葵展の抽選だ」

「あぁ……園子ちゃんがニュースで言ってたやつか」



鈴木財閥主催の、世界中からゴッホの向日葵を集めた展覧会「日本に憧れた向日葵展」。
期間中、一日100人限定の入場で、チケットは抽選販売だ。
先日、テレビの生放送に出演した鈴木相談役と園子ちゃんが、「天文学的数字になる」と話していた。

オークションの時の中継見ても思ったけど、彼女ほんとしっかりしてるよなぁ。
根が経営者っていうか、堂々としてるよね。
普通の女子高生はあんな風に人前でスラスラ話せないよ?



「赤井さん、向日葵展行きたいの?」

「まあ、興味はある」

「ふーん……私もやろうかな」



当たるのは難しいだろうけどね。
呟くと、赤井さんがディスプレイをこちらに向けた。どうやら今ここでやれってことらしいです。

最初に名前と顔写真を登録、か。



「……赤井さん、登録したの?」

「もちろん」

「どっちで」

「さすがに、沖矢の方だな」



苦笑する赤井さんに、だよねーと返し、カチカチと進めていく。
あとはクリックするだけで抽選だ。



「当たるかな? ……ダメかぁ」



画面には先ほどと同じ、ハズレの文字と鈴木相談役の姿。
まあ、そう簡単に当たりませんよね。
残念、と呟いて、パソコンを赤井さんに返す。



「これ、当たるとどうなるのかな」

「最初に登録した名前と顔写真が正式に登録され、IDとパスワードが表示される。それをサイトのフォームに入力すると、後日チケットが送られてくるらしい」



返ってくるとは思わなかった返答に、数度瞬く。



「詳しいね?」

「阿笠博士に教えられてな」

「当たったの?!」



どんな強運だよ博士……!

こうもプレミアチケットだと転売とか出てきそうだけど、これは顔写真まで登録してるから、本人以外は入場できないのだろう。
さすが鈴木財閥……抜かりないな。



「快斗の手助けをするためにも、入れるに越したことないのよねぇ」


うーん、と唸る。
快斗は、高校生探偵・工藤新一として潜入する算段だ。
本物の工藤くんは来られないからね。
いや、いるんだけどさ。工藤くんじゃなくて江戸川くんだから。

正直、私の念を使えば、会場に入れない訳じゃない。
でもなあ、いないはずの人が現れたら、説明しにくいし、正規のルートで入るのが一番いい。



「……園子ちゃんに言ってみようかな」



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