ヒソカがぴくりと反応したと思ったら、突然に飛び上がった。
飛びかかったんだ、と気付いたのは、オーラが思わず引くくらい跳ねたから。

異世界を繋ぐ、セレナの念能力。
電話からしばらく、時空を越える門が開いた。



「待ってたよ、セレナ!」



言うや否や、ヒソカは遙か彼方に吹っ飛ばされた。
門が開いた瞬間、攻撃を受けたらしい。
相変わらず速い。



「イルミ、世話をかけたわね」



大の男を軽く吹っ飛ばして涼しい顔のセレナに、ひらりと片手を振る。
大体、こんなに離れて観察しているというのに、何の躊躇いもなく声を掛けてこないでほしい。

何度も飛びかかるヒソカを軽くあしらう姿に恐れ入る。
時折入れる反撃は確実に入っている。だというのに、ヒソカは沈む気配を見せない。
なんなの。ゾンビなの。

別にここで親子喧嘩?を見守る義務もないんだけど、興味があるのも事実。
あとどれくらいかなーと思ったところで、既に外見はボロボロの男が笑った。



「セレナ! もっと遊ぼう!」

「やだよ……」



心底嫌そうに言うセレナに、ヒソカは怯むことなく嬉しそうに向かっていく。
なんなの。バカなの。

目にも止まらない早さで応酬を繰り広げる二人。



「どうしたらもっと本気で遊んでくれる? ねえ、ねえ!」

「なんで私がアンタ相手に本気で遊ばなきゃなんないの」

「セレナの大事なもの壊したら━━怒ってくれる?」



その言葉に、セレナが足を止めた。
少し距離をとってヒソカも止まる。



「例えば?」



セレナの表情は窺えない。
それでも、自分の言葉に反応を示したことが嬉しいのか、ヒソカは楽しそうに続けた。



「そうだなぁ……シューイチ、とか」



あ、それ、言っちゃいけないやつ。

咄嗟の判断で飛び退いた。
瞬間、とんでもない量のオーラが辺り一帯を埋め尽くす。

心なしか暗い、そして寒い。
太陽さえ落としたのかと、つい空を見上げた。



「━━━━ここで死ね」



地を這うような声だった。

全身が恐怖を叫ぶ。
この世の終わりが、終末がすぐそこまで来ている。
やぁ、と片手を挙げて挨拶している。

そこで正気に戻ったのか、ヒソカは虚を突かれた顔で立ち尽くした。



「あ……ボク、今……」



俺でもわかったんだから、ヒソカがわからないはずがない。
サァッと顔を青ざめたヒソカは、慌ててセレナへと視線をやる。
しかし、彼女の方が速かった。

遠目からでもわかる強烈な一撃をもろに喰らい、ヒソカの身体は大きく吹き飛んだ。
地面に伏し、起き上がらない。



「━━死んだ?」



興味が沸いて近寄ると、セレナが溜め息を一つ。



「殺してないわよ……」



先ほどまで辺り一帯を黒く埋め尽くしていた張本人とは思えない呆れ顔。
ヒソカを伸して落ち着いたのか、彼女のオーラは元に戻っている。



「どうすんの、これ」

「しばらく反省させるわ」



今日はうちに入れない、と言い切るヒソカのお母さんは、特大の溜め息を吐いた。



ちなみに、ヒソカが謝罪と反省の言葉を繰り返し、門の通行を許可してもらうまで3日かかっていた。
あのヒソカが謝り倒す様子なんて、セレナ絡みじゃなきゃ見れないよ。

恐ろしいけど面白いよね、この親子。



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