━━No.001が門の通行を求めています。
おや、と首を傾げる前に、机に置いていたスマホが震えた。
『開けない方がいいよ』
着信の表示から、誰からかかってきたのかはわかっていた。
だが、その開口一番の台詞に、ぴくりとスマホを持つ手に力が入る。
開けない、とは、
こうもリアルタイムに電話がかかるということは、承認を求める人物を、側で見ているということで。
「イルミ? どういうこと?」
『セレナ、っ』
イルミの声が途切れ、若干のノイズ。
次いで聞こえた甘い、甘いヒソカの声に、背筋がぞわっとした。
『セレナ、ねぇセレナ』
「……ヒソカ」
『どうして開けてくれないの? ねぇどうして? ねぇ、ねぇねえ!』
━━だめだこいつ、酔ってる。
酒じゃない。血だ。興奮してやがる。
大方、久しぶりに戦闘か何かして、ズギュゥウウンしたんだろう。
バカ息子め。
リビングには赤井さんと快斗。
くそ、こんなことに理性飛ばした血塗れの殺人ピエロ帰らせてたまるか。
━━No.001が門の通行を求めています。
急かすように、脳裏に響く声。
承認してたまるか。
「拒否する!」
突然叫んだ私に驚いたのか、快斗と赤井さんがこちらを見る。
快斗の目はまん丸だ。
しかし、今はそんなことに構っていられない。
耳元ではまたノイズが聞こえ、イルミが私の名を呼んだ。
ヒソカから携帯を奪い返したらしい。
『で、どうする? やだよ俺、あんなんの相手するの』
「わかってる。連絡ありがとうイルミ。下がってな、バカに説教するから」
『来るの? わかった』
ヒソカは多分、他の誰より、私の念について知っている。だから、世界を繋ぐ門を開けば、気付かれる。
それでいい。開いた瞬間にぶちのめしてやる。
今のヒソカは、久し振りの戦闘に興奮している状態だ。会話は期待できない。
つまり、どうするかの対処なんて、最初から一つしかないのだ。
ボッコボコにして沈める。これしかない。
「セレナ……?」
「どうかしたのか」
心配そうにこちらを眺めてくる二人に、私はニコリと笑いかける。
おっと、何で若干引かれたのかな?
快斗くんよ、ひぃ、ってどういう反応かな?
出来の悪い息子のせいで、お母さんちょーっと怒りがにじみ出てるだけなんだけどな?
「二人とも、絶対ここから動かない。いいね?」
「あ、あぁ」
赤井さんは珍しくどもり、快斗は無言でこくこくと頷いている。
素直でよろしい。今回ばかりは、門の開閉に巻き込むわけには行かないからね。
「じゃあ、ちょっと出かけてきます」
「い、いってらっしゃーい……」
快斗の震える声を背に、門を繋いだ。