読書は昔から好きだ。物語の世界に入り込める、あの感覚が好き。
ファンタジーとかね。
異世界ものとかね。
実際に異世界に入り込んでる身からすると、共感度合いがハンパないよね!
最近は探偵ものとかも好きだな。周りにいっぱいいるし、探偵。
今日は、こっちに来てから読み始めたシリーズの新刊が出る日。
学校帰りに本屋に立ち寄った。
探偵左門字シリーズ、面白いよ。
るん、と新刊コーナーに足を運ぶと、何やら見覚えのある後ろ姿。
あれは……探偵くんじゃないか!
「コナン君」
「え? あ、セレナねえちゃん」
財布と睨めっこするその小さい姿に、つい声を掛けた。
彼の前には、左門字シリーズの新刊。本日発売のポップが掲げられている。
ははーん、なるほど?
「いくら足りないの?」
「えっ……どうして?」
「財布と睨めっこしてるから。お金足りないのかなーって」
違った?と首を傾げれば、小さく首を振るコナン君。
実はそうなんだ、としょげる姿は小学生そのものです。恐ろしいなこの子!
「コナンくん、まだー?」
「あれ? 誰ですか、そのお姉さん」
「知り合いか?」
本棚の陰からわらわらと現れた子どもに、目が丸くなる。
少年探偵団じゃないですか!
わー、かわいーな。
「江戸川くん、ひょっとして……足りなかったのね?」
「……うっせぇ」
女の子にからかいの視線を向けられて、コナン君がそっぽを向く。
二人がそんなやりとりをしている間に、私は少年探偵団に囲まれていました。なぜだ。
女の子が振り返って言う。
「ねえねえコナンくん、このお姉さんはだれー?」
「あぁ、セレナさんって言って、蘭ねえちゃんの友達だよ」
コナン君がそう言えば、蘭お姉さんの?と、言いながら女の子がこちらを見た。
事実なので頷く。視線を合わせるため、しゃがんだ。
「みんなは、コナン君のお友達?」
「うん! 私、吉田歩美!」
「僕は、円谷光彦っていいます!」
「おれ小嶋元太!」
「……灰原哀」
おおお、灰原さんまで……!
あ、なんか嬉しいなこれ。
私が地味に感動していると、少年探偵団たちはコナン君の側に集合していた。
「おいコナン、もう行こうぜ」
「買えなかったんですか?」
「……なぁ、お前ら」
「なぁに?」
「あー、いや……なんでもねぇ」
とほほ、と顔面に書いてある。
お前ら金持ってないか、と聞こうとして、止めたんだろう。中身高校生だもんねぇ、小学生相手に言えなかったんだね。わかるわかる。
それにしても、探偵くんも左門字読むのか。そういえば、そんな話あったような気もするな。
……ん、待てよ? 作者が新名香保里になってから出てくる探偵と、その娘と、生意気な小学生って、ひょっとしなくても毛利探偵と蘭ちゃんとコナン君か?!
「行くわよ、江戸川くん」
「へーい……」
子どもたちは待ちきれず、外へ駆けだしていった。
去り際、「またね、セレナお姉さん!」と笑顔を見せてくれた歩美ちゃん、まじ天使。かわいいねぇ。
灰原さんに急かされるも、コナン君の視線は名残惜しそうに新刊を見ている。
まったく、しょうがないなぁ。
「コナン君、ちょっと待ってて」
「え?」
言いおいて、新刊を手に取りレジへ。
会計を済ませて戻ると、良かった、ちゃんといた。
「セレナねえちゃん?」
「はい、これ」
そう言って買ったばかりの新刊を渡せば、真ん丸に見開かれる目。
驚きの表情と視線が、私の顔と本を行ったり来たり。
「随分気前がいいのね」
おっと、そうなるか。
灰原さんの声に苦笑が漏れる。
「いいとよかったんだけどねぇ。レンタル、でいいかな? ごめん、プレゼントできるほどの余裕がなくて……」
嘘だがな!
余裕はあるけど、あんまり大盤振る舞いして怪しまれるのも何だしね。
「読み終わったら返してね」
「で、でも、それじゃセレナねえちゃんが……」
「コナン君、早く読みたいんでしょ?」
私は後でもいいからさ、と告げると、途端にキラキラと輝く少年の瞳。
お、おお……。
「ありがとう!」
すぐ返すね!と朗らかに宣言するので、ゆっくり楽しんでーと返した。
笑顔のまま手を振って去っていく彼は、どこからどう見ても小学生にしか見えない。
手に持ってるの探偵小説ですけどね!
さーて。
今日は読書する気だっからなー、どうしよう。
もう一冊買って帰るって手もあるけど、レンタルって言っちゃったしなぁ。近々返ってくるなら、もう一冊買うのもちょっと気が引ける。
仕方ない。時間潰して帰るか、と私は街へと繰り出した。
翌日、本、返ってきました。
「ありがとう!」と満面の笑みで。聞けば、徹夜で読んだらしい。
止めろ小学生! 寝ろ!
もちろん蘭ちゃんにチクりました。