「ねえねえ! セレナの念は何系なの?」
「……は?」
風呂上がり、おめめキラキラの快斗から飛び出た質問。
私はといえば、濡れた髪を拭きながら訝しげな声を上げるしかなかった。
「髪の毛乾かしてから出ておいでって言ってるのに」
「風邪引くなよ」
小言を言うのはヒソカと赤井さんだ。お母さんか!
はいはい、と軽く返事をした後、快斗へと視線を戻す。
なぜにこの子が念の話を?
「ヒソカに聞いたの?」
「そう! 性格で系統が違うんだよね?」
「えー……ちょっと違う……」
おそらく、ヒソカが前言っていた、オーラ別性格診断のことだろう。
私がお風呂で外している間に、そんな話になったんだとか。何話してんだこの子ら。
オーラ別性格診断は、「○○系ならこういう性格」という、まあ言ってみれば、血液型診断みたいなものだ。A型は几帳面、とか。
ちなみに、強化系は単純で一途。
放出系は短気で大雑把。
操作系は理屈屋・マイペース。
特質系は個人主義者・カリスマ性あり。
具現化系は神経質。
そして変化系は、気まぐれでうそつき 。
言うまでもないが、科学的根拠は全くない。
「性格でオーラが変わる訳じゃないよ。その系統の人に、そういう性格が多いってだけじゃない?」
「そうなの?」
「当てはまらない人も多いよ。ヒソカが変化系で、気まぐれでうそつきってのは当たってるけど」
「ひどいなぁ、ボクがうそつきって言いたいのかい?」
にっこり笑ってくるヒソカが胡散臭くて仕方ない。
念の系統とか、あんまり口外することじゃないんだけどね。相手に手持ちがばれるのは望ましくない。
でもまぁ、ここじゃ気にしなくて良いか。
「私は特質系だけど、カリスマ性とかないし、当てはまらないかな」
「えっセレナ、特質系なんだ?」
「そうだよ」
まあ、実は後天的特質系なんだけど、そこは黙っておく。
私が系統を明かすと、快斗が「ええー」とか言いながら赤井さんを見た。
その赤井さんは、ふっと満足そうに笑っていらっしゃる。
「俺の勝ち、だな」
「強化系だと思ったのにー!」
この子ら、どうやら、私が何系なのか賭けてたらしいな。
ほんと何やってんだか。
ヒソカは知ってるから不参加だったようだ。残念だったねぇ、と快斗を慰めている。
と、いうか、
「なぁに快斗、あなた、私が単純だとでも……?」
「ち、ちがうよ! だって! 強化系ってなんか強そうじゃん!」
字面で選んだのか。
「あーあ、俺にもオーラあればいいのに!」
「カイトは強化系っぽいよねぇ」
「え、単純ってこと?」
「あぁ、確かに」
「えっ、ねぇ、単純ってこと?!」
ねぇねぇと悲壮な声を上げる快斗を後目に、私は赤井さんに視線をやった。
彼は何系かなー。
私の視線に気づいたのか、ヒソカと快斗も彼を見る。
当の本人は「なんだ?」と首を傾げていた。
「赤井さんは……なんだろね?」
「シューイチは結構マイペースだし、操作系かな」
「あんたに言われたくないと思うわ……」
「えー! 赤井さん絶対特質系じゃん! 個人主義だし! カリスマ性あるし!」
快斗の声に、ヒソカと二人して目を見合わせた。
なるほど、確かに。性格診断からいえば、特質系タイプなのかもしれない。
赤井さんは苦笑して、快斗を撫でていた。
「そうだったら嬉しいが、こっちの世界にはそういうのはないんだろう」
「んー……そう、でも、ない……かも」
私が呟けば、二人がえっとこちらを見た。
ガン見されている。
いやね、前々から思ってたことがあってね。
「オーラは生命エネルギーだから……こっちにも、あるにはあるんだよ。向こうよりも表面に出にくいだけ、っていうか……出す必要があまりない、のかな?」
「そうだねぇ。たまーに、纏ってる人はいるよね」
「そうなの?!」
そう、たまーにいるのだ。
無意識なんだろうが、オーラをコントロールしている人がいる。向こうだと念能力者と呼ばれるだろうね。
「蘭ちゃんとかね……」
「それって名探偵の彼女?!」
私がこの探偵世界に来て、初めて気付いた「向こうでは念能力者」が彼女だ。
最初は、さすがヒロインは何かが違うなーと思っただけ。
ここはハンター世界でないから、念能力者はいない……という先入観からなかなか気付けなかったが、一度理解すれば見えてくる。
「あの子たぶん、強化系だと思う」
比喩でもなんでもなく岩をも砕く彼女の拳。
あれは無意識にオーラを移動させて、その部分を強化しているのでは、と思う。
何かに秀でていたりする人って、みんな何かしら能力者なんじゃないかなーって。まあ、これはハンター的考えなんだけどね。
「俺、絶対、名探偵の彼女に正体ばれたくない……!」
青い顔で震えるこの子は、さて、蘭ちゃんに何やってきたんだお前。