理由はわからない。
でも、振り返れば、昔からそんな日がたまーにあったような気もする。
身体の中に熱が籠もる、そんな日が。
「……熱い」
ハァ、と息を吐く。
どうしたものか。
「セレナはどうしたんだ」
「さあ?」
赤井さんとヒソカがこっちを見ている。
その視線が、今のこの身体には痛い。
「今日はもう寝る……」
身体を埋めていたソファーから身を起こし、ふらりと立ち上がる。
一人になろう、そうしよう。こんな日はさっさと寝るに限る。
頭を冷やせば、そしたら身体も冷えるだろう。たぶん。冷凍庫から氷嚢をとって、階段を上がった。
「大丈夫か?」
「放っといて……」
「だが……」
ついてこようとした赤井さんを片手で制す。
お願い放っといて、お願い。
私の拒否に、彼が眉を寄せる。何か言おうと口を開いたが、ヒソカが笑って言う方が早かった。
「ダメだよシューイチ、下手に近付いたら食べられちゃうよ?」
猛獣か、私は。
自室に入り、不貞寝するようにベッドに横になった。寝ようにも寝られない。
なんなんだ。最近大人しく生活してたからか……いや大人しかったか?
そうでもなかったような、と自問自答していると、コンコン、と控えめなノックの音。
「入るぞ」
あー、もう、なんで来ちゃうかな。
横になったまま思わず軽く睨めば、来訪者━━赤井さんは溜め息を一つ。
溜め息吐きたいのはこっちなんだよ本当。
「放っといてって言ったでしょ」
「ヒソカが、様子を見てきた方がいいと言うもんでな」
「人を猛獣みたいに言ったくせに……本人はどうしたのよ」
「買い出しに行くらしい」
「こんな時間に?」
赤井さんの言葉通り、外からエンジン音が聞こえた。ヒソカが車を出したようだ。
真夜中ではないが、夜には違いない。こんな時間に買い出しなんて、まあ、嘘だろうな。
……気を使われてるのが悔しい。
「セレナ」
く、と俯いていた顔を上げさせられて。
赤井さんの大きな手が額に触れる。
熱、が。
目を見開いて固まっている私を訝しんでだろう、赤井さんが再度私の名を呼ぶ。
低い声が、鼓膜を刺激する。
大きい手だ。
服の上からでもわかる、鍛えられた身体。ふわりと香るのは煙草か。
ドクン、と胸が鳴った。
「……赤井さん」
「なんだ?」
ぐい、と腕を引っ張って、瞬時に位置を入れ替える。
私の目の前にはベッドに仰向けに倒れる赤井さん。突然のことにぱちりと瞬いている。
あ、かわいいな、こいつ。
「っ、セレナ?」
困ったような声音。
そりゃそうか。マウントポジションで服を脱がしにかかる私を、どう扱っていいかわからないのだろう。
そんな戸惑いなんて気にもとめず、私は手を進める。シャツ一枚の赤井さんは、あっという間に上半身裸になった。
いい身体してんなぁ。
「どうした、っ、こら」
さわりと触れば、流石に焦ったのか声を上げる。
「急に何を……セレナ?!」
素早く両腕を頭の上で纏めあげる。
驚いて、逃れようと赤井さんが力を込める。しかし、縫いつけられた身体は逃げることができない。押さえてるの誰だと思ってるの?
ハァ……。
身体が熱い。息すら熱い。だめだよ、そんな目で見ないで。そんな声で呼ばないで。そんな、エロい……あー……もう、いいよね?
「離せ、何を……っ」
「黙ってなよ、秀一くん」
噛みついた唇は、煙草の味がした。
「おっはよー! ……何してんの?」
翌朝。昨夜は寺井さんの家に行っていた快斗がやってきた。
元気よくドアを開けた彼が、面食らったという顔で呟く。
彼の目には、ソファーに腰掛け遠い目をする赤井さんと、彼の足下で土下座する私が映っていることだろう。
「ほんとごめん……」
「……まあ、男の面目はなかったな……」
ふ、と苦笑する気配に、ますます額を擦り付けるしかない。
ごめんなさい美味しかったです!ごめんなさい!
「あの二人、何かあったの?」
「ナニかあったんだろうねぇ」
ヒソカの生暖かい視線が、昨日とは別の意味でとても痛い。
見ないで!ごめんお願い見ないで!
「身体はもういいのか」
「おかげさまで……というか、大丈夫、ですか」
あなたの方が、と思わず敬語で尋ねれば、彼の苦笑はますます深くなった。
いえ、あの、無理させた自覚はあるんです……!
手加減する余裕とかなくて!
探偵世界と狩人世界の体力の違いとか!考えてなくて!
「……ここで死ぬのか、とは、思ったな」
「ほんとごめん!!!」