取引は館長が行うことになった。
キッドが規定した帝都シティホテル、1412室。
これでもかと仕込まれたカメラのおかげで、室内で緊張の面持ちの館長も、用意された100億円をベッドの上に並べる捜査員たちの様子もよくわかる。

別室では、青森警部を筆頭に、毛利探偵、鈴木相談役らがモニターを見つめていた。



「セレナ姉ちゃん、キッド、来ると思う?」



不意に投げかけられた声に下を向けば、小さな探偵くんがじっと私を見上げていた。
いくらキッドキラーとはいえ、小学一年生がここにいることに、誰か突っ込まないのかなー。



「来るんじゃないかな?」



私がそう答えれば、彼はその大きな目をぱちりと瞬いて、こちらを見上げてくる。



「なんでそう思うの?」

「え、だって、来ないならあんな予告いらないじゃない」

「そうだけど……」



何が気になるのか、探偵くんは視線をモニターに移した。
だが、背の低い彼からは画面がよく見えないらしい。場所を変えたり背伸びをしたりを繰り返すが、毛利探偵に「大人しくしてろ!」と一喝されてしまった。

いや、だからね。
大人しくしてろ!じゃなくて、帰れ!じゃないのかと思う訳なんですが、ね。
思わず溜め息が零れる。

と、沖矢さんと目が合い、お互いに苦笑を交わす。
そんな時だった。



「画面が見たいのか?」



チャーリー警部が探偵くんを抱き上げ、いくつかモニターのついた机の前に座らせた。
慣れた手付きでカチャカチャいじると、パッと映像が映し出される。
毛利探偵たちが見つめているモニターと同じ、監視カメラからの映像のようだ。



「何か気付いたことがあったらすぐに言うんだ」

「はーい」

「お前たちもだ。いいな」



優しいところもあるのかね、と思って見ていたら、急にこっちを向くものだから驚いた。
しかもなに、その言い方?
私あんたの部下じゃないんだけど?



「えぇ。もちろん、すぐにご報告します」



スッと据わった私の目に気付いたのか、隣の沖矢さんが答えた。
その際、さり気なく私を背後に庇う。

な、なによぅ……別に、ここで一悶着しようなんて思ってないんだから!
いくらなんでも喧嘩売ったりしませんよ、そこまで子どもじゃないからね!
そんな意味を込めて、沖矢さんの背中に軽く拳を当てておいた。
力? 入れてないですよ。

入れたら折れちゃうじゃない、ねぇ?



「セレナさん? 何か、物騒なことを考えていませんか」

「え? なにも?」

「……本当だろうな?」



わざわざ赤井さん口調で確認しなくたっていいでしょうに!

そんなやりとりをしている内に、何かに気づいたらしい探偵くんが部屋を飛び出していった。
チャーリー警部も彼を追いかける。

さぁーて、ここからですよ!



「沖矢さん」

「えぇ」



名前を呼んだだけの短い声掛けだが、意図はきちんと伝わったらしい。
私たちは同時に部屋から抜け出した。

行き先はもちろん、1412号室。



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