「……わかりました。お客様に事情を説明し、閉館を早めてみましょう」
館長が重々しく息を吐いた。
さて問題です。なぜ私はここにいるのでしょーか!
向日葵の前で名探偵たちと合流してしまった私たち。その後、毛利探偵や中森警部たちとも合流する羽目になった。
キッドの目的は、この向日葵。
別室にて詳しい話を、ということで、館長とともに移動しようとなった。
そこで、かの名探偵が可愛らしく声を上げたのが始まりだった。
「そうだ! 昴さんにも一緒に考えてもらおーよ!」
「……はい?」
おっとー、FBIさん反応が遅れておりますよー!
「ぁんだぁ? この優男は」
「沖矢昴さん! 帝都大学の大学院生で、すっごく頭いいんだよ!」
可愛らしく言って、名探偵がにっこり笑う。
素晴らしい子ども演技ですね。私にはその笑顔、真っ黒にしか見えませんけどね!
使えるものは何でも使っておこう、っていうね! FBIの知恵とかね!
「でしたら、もう一人。セレナさんもぜひ」
「……はい?」
おっと、あまりのことに同じ反応しちゃったじゃないの。
沖矢さんはともかく、私はただの女子高生だ。
……少なくとも、ここでは。
「セレナさんの観察力や発想には、驚かされることがあります。きっと、捜査の新たな光となると思いますよ」
こ、このやろう……!
にこやかに適当なことを言う沖矢さんに、頬がひきつる。
「良かろう。戦力は多いに越したことはない。そこの坊主も含めてな」
鈴木相談役が快活に言い放つ。
しかしなぁ、なんて、中森警部は乗り気ではないようだ。当然だと思う。
いきなり部外者が二人も増える訳ですからね。
「仕方ない。じゃあ、とっとと行くぞ」
そう言って、中森警部はおもむろに沖矢さんの顔に手を伸ばした。
おおーっと!
「えっ、中森警部!?」
「なんだ、坊主」
「な、何するの?」
「何って、この兄ちゃんが捜査の役に立つかはともかく、変装したキッドじゃねぇとは言い切れないだろうが。いつものように、チェックしとくだけだ」
中森警部の言い分は尤もだ。
この沖矢さんが、キッドの変装ではないという証明をする。そのために、頬を引っ張るつもりなのだろう。
簡単なチェックだ。変装なら、これで剥がれる。
普通なら、何の問題もない。ただ頬が伸びて、多少痛みを感じるくらいだ。
沖矢さんはキッドじゃない。
だが、赤井さんだ。
これはまずい!
引っ張られたらばれるよね!
「お、沖矢さん、セレナ姉ちゃんと一緒だったみたいだし……キッドじゃないと思うよ?」
「念のためだ、念のため」
「で、でも……!」
あーらら、名探偵がめちゃ焦ってる。
さっきから一言も発してないけど、沖矢さんも焦ってるだろうな。
仕方ない、お姉さんが一肌脱いであげますか。
「沖矢さんがキッドじゃないと、わかればいいんですよね?」
「まぁ、そうだが……」
「沖矢さんが知っていて、キッドが知り得ないこと……それを、この沖矢さんが知っていれば、それで証明になりますよね」
にこりと笑顔の私に、中森警部が視線をこちらに向けた。
「沖矢さん。キッドが最初に向日葵を狙った日……博士の家のスイカ、何の形に切られたか、覚えてますか?」
「えぇ……仮面ヤイバー、ですね」
「正解だぞ!」
「昴お兄さんはキッドじゃないよ!」
「キッドがニューヨークにいるとき、僕たちとスイカ食べてましたから!」
「そうね……博士の発明品のことなんて、キッドは知らないんじゃない?」
探偵団たちからの援護射撃。なんと灰原さんまでも。ありがたいねぇ。
「わかったわかった」と半ば呆れたように言い放ち、中森警部は沖矢さんの頬から手を離した。
やれやれ、一段落ですかな。
名探偵がすごいほっとした顔してる。
きみ、ちょっと表情に出過ぎじゃない? 隠す気ある?
「信じてもらえてよかったですね、沖矢さん」
隣に来た沖矢さんに、にこりと笑って告げる。
「えぇ、本当に。……助かった」
後半は私にしか聞こえない音量で。
肩をすくめて答えると、彼は「では行きましょうか」と私を促す。
んん?
「え、ほんとに私も行くの?」
思わず敬語がとれたじゃないの。
そんなこんなで、私と沖矢さんは、対キッドチームに合流してしまったのです。