日本こーあ……なんたら……美術館。長いわ。
私と沖矢さんは、ここに向日葵を見に来ていた。
もちろん、快斗の予告に合わせてですよ。
キッドは、眠りの小五郎宛に予告状を出した。彼に出したら、自動的に小さな名探偵も着いてくるからね。
狙いはラ・ベルスーズの左、最初の模写━━この美術館にある、五枚目の向日葵だ。
「沖矢さん、着いてきてもらってよかったんですか?」
隣を歩く沖矢さん(に扮した赤井さん)を見上げる。
意味は、私と二人で美術館来て楽しい? だ。
快斗は今頃警備員として潜り込んでいるだろうし、ヒソカは家で待機。煮物を作るらしい。時間が来たら、キッドに合流して手助けの予定だ。
最初はヒソカと来ようと思っていた。
あの子、結構美術館とか好きだし、丁度いいかと思って。
辞退されたけど。ここ、何回も見に来てるんだって。いつの間にだよ。
声をかけたら「シューイチと行っておいでよ」だもんな……何考えてるんだか。
ま、どーせしょうもないことでしょ。っていうか聞こえてたし。
「たまにはデート行かなきゃ」と赤井さんを諭してる奴の声が、な!
「もちろん。セレナさんとデートができて嬉しいですよ」
にこりと笑う沖矢さんに、何とも言えない気持ちになる。
いやだって、これ、赤井さんなんだよ?
しかもなんかヒソカの助言を実行してる感があるし?
……まあ、私だって別に、二人で出かけるのが嫌な訳じゃないから、いいんだけどさ。
予告時間までは、普通に美術館を楽しむことにした。
赤井さんは絵の知識もあるらしく、所々で解説を入れてくれる。万能だなこの人。
ちなみに、ラ・ベルスーズ云々の暗号を作ったのもこの人だ。ノリノリだったとだけ言っておこう。
「ヒソカといい、あ……沖矢さんといい、意外な趣味というか何というか」
「彼は好きなようですが、私のは一般常識の範囲です」
赤井さんの求める一般常識のハードルが高い。
なんて会話を小声で交わしながら、展示室の奥へ。
そこに、目的の向日葵がある。
「これかぁ……」
「これですね」
いまいち、芸術というものに理解が追いつかない私だが、こんな風に飾ってあると「すごいものなんだなぁ」ということは伝わってくる。
こう、実際に目の前にすると、思ってたより大きいなぁなんて。
同時に、これのために、快斗は体を張っているのかと思えて、なんだか感慨深くなってしまった。
向日葵の前に設置されたベンチには、老齢の女性が座っていた。
綺麗に着物を着こなした彼女は、その姿勢すら気品に溢れている。きっとどこぞの大奥様とか、そんな感じだろう。
彼女は向日葵だけを見つめていた。
その視線に引っかかりを覚え、思わず軽く首を捻ったとき、ポケットでスマホが震える。
取り出すとラインに一言。
『その人だよ』
快斗からだった。近くにいるみたいだね。
短い内容だが、十分伝わる。
そうか、この人が……快斗が、そして寺井さんが、向日葵を守りたい理由。
数歩下がった私は、向日葵と、その人の背中を同時に視界に納めた。
うん、いい絵だ。
「あーっ、これだぁ!」
「ありましたよ!」
ばたばたと騒がしい声が近づいてきて、私と沖矢さんは振り返った。
見覚えのありすぎる集団がやってくる。
「おいお前ら、静かにしねぇと追い出され……って、え?」
呆れた視線でその後を着いてきたのは、小さな名探偵と灰原さん、そして阿笠博士だった。
少年探偵団、勢揃いである。
「おぉ、沖矢くんにセレナくん!」
「博士。引率ですか?」
にこやかに挨拶を交わす大人組を余所に、名探偵は目をまん丸にしてこちらを見てくる。
なになに?
たっぷり十秒ほどこちらを見た後、彼はちらりと沖矢さんを見て、ぽつりと言った。
「……デート?」
またそれかい!
とりあえず、一緒に向日葵見に来ただけだよ、と返しておく。
おい名探偵、なんでそんな微妙な顔してんの。