「なんなのアイツ、もーっ、ほんとに信じらんない!」



効果音を付けるなら、キィーッ、だろう。園子ちゃんが荒れていた。
ホームルーム前、クラスメートたちはおしゃべりをしたり、読書したり、予習をしたりと、思い思いの時間を過ごしている。
そんな中で聞こえてきたのが、この台詞である。



「まぁまぁ園子、落ち着いて」

「何よー! キッド様が貶されたのよ?! 黙ってなんかいられなーい!」



ほー、う?
何やら聞き捨てならない内容に、私はくるりと体の向きを変えた。私の席、園子ちゃんの前なんですよ。
園子ちゃんと、彼女を宥めていた蘭ちゃんの目が私をみる。



「ごめんねセレナちゃん、うるさくして……」

「ううん。園子ちゃん、どうしたの? 朝から荒れてるね」

「聞いてよセレナー!」



ガッと肩を捕まれた。おおぅ。

そこから園子ちゃんは蕩々と語り始める。
向日葵と共に飛行機に乗っていたこと。
その飛行機が爆破されたこと。
向日葵をキッドに奪われたこと。
コナンくんがキッドを追いかけ、向日葵を奪還したこと……。
ここまでは、私も知っている話だ。

向日葵を抱えて飛ぶキッド。
小さな名探偵が追いかけてくることは想定済みだった。
彼が何を考えるか、どう動くかを予想して、彼の一歩先をいく。赤井さんの知恵も借りながら、快斗は動いた。

そして、彼を信頼して、向日葵を託したのだ。



「もー、大変だったのよ。向日葵は戻ってきたし、傷もなかったけどさぁ」



やれやれ、とため息を吐く園子ちゃん。
そんな彼女に先を促す。聞きたいのは、その先だ。



「さっき、貶されたって聞こえたけど……」

「そうそう、そうなの! セレナ、おじさまの“七人の侍”見た?! その中のチャーリーって刑事よ!」

「あぁ、あの、ニューヨークの警察の人?」

「アイツ、キッド様のこと悪く言ったのよ! 人殺しだの、テロリストだの!」

「へぇ……?」



キッドが人殺し?
キッドがテロリスト?

随分、舐めたこと言ってくれんじゃないの。

だが、無理もないのかもしれない。
あの飛行機の爆破も、キッドの仕業にされているのだ。

キッドは、向日葵を守るために動いているのに、被害が最小限になるように考えているのに、それを知る者はいない。
あんなにも頭を悩ませ、心を痛めているあの子を、知る者はいない。



「キッド様は、そんなこと、しないのに」



本当に悔しそうな園子ちゃんの声音に、はっと彼女を見る。
視線を下に落として、震える拳を握りしめて、彼女は続けた。



「キッド様のこと何も知らないのに、どうして、あんな酷いこと言うのよ……っ」

「園子……」

「園子ちゃん……」



私と蘭ちゃんは目を合わせ、そっと園子ちゃんの肩に手をおいた。

園子ちゃんだって、あの飛行機で、命の危機にあったというのに。
犯人と思われているキッドを、人殺しなんかじゃない、テロリストなんかじゃないと、ここまで信じてくれているなんて。

大丈夫よ、快斗。
信じてくれる人はいるよ。



「園子ちゃんにそこまで言ってもらえて、キッドも喜んでると思うな」

「えっ、そ、そう? ってか私、勝手に怒ってるだけだし……」

「そんなことないよ」



本当に、そんなことないよ。



「園子ちゃんも、蘭ちゃんも、あの飛行機の事件はキッドじゃないって思ってるんだね」

「当ったり前よ!」

「うん……向日葵を盗もうとしたのは確かにキッドだと思うけど、でも、キッドはあんなに危ないことはしないと思うの」



二人の台詞に、思わず頬が緩む。



「セレナちゃん?」

「ん?」

「何よ、なんか嬉しそうね。さてはセレナ、あんた、キッド様ファンね?」



ふは、と小さく吹き出してしまった。
キッド様ファン。ファンか、そうだね。



「そうかも」

「やっぱりぃー!」



機嫌を持ち直したらしい園子ちゃんの声をバックに、私も蘭ちゃんも笑った。



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