週末の午後だというのに、人影は疎らな美術館。
それも、恐らくこの週末くらいだろう。きっと来週末は人でごった返すに違いない。
何せ、週明けにはキッドの予告状が出るのだから。
「ねぇセレナ、どの辺りに展示されると思う?」
隣を歩く快斗が小さく言った。
可憐なティアラに、ダイアモンドやクォーツがこれでもかと散りばめられた一品。中でも、中央に飾られた、白く大きなクォーツが人々の目を引く。
怪盗キッドの今回の獲物だ。
展示は来週の金曜日からなので、本日は会場の下見である。
キッドの予告日は来週の日曜日の予定なので、恐らく前日の土曜日辺りにもう一度下見や仕掛けに来る。
「さっき見た第一展示室かなぁと思うけど……予告が出たら変わるかもね」
「えー、変えちゃう?」
「どこか一室、特別展示室とかにするかもよ。ほら、あっちの展示室、そこそこの広さじゃない?」
小声で話し合いながら、美術館を歩いて回る。
それほど広くはないが、開放感のある造りで全体的にゆったりしたところだ。
いいねぇ、今度ヒソカも連れてこようかな。あぁ見えて美術館とか好きなんだよあの子。
粗方見終わったころ、私と快斗は中庭に出た。
いい天気だ。穏やかな風がサワサワと木々を揺らしている。
綺麗に手入れされた花々も、決して華美すぎず、この雰囲気にマッチしている。いや、花々こそ、この穏やかな中庭の雰囲気を作り出しているのか。
いいねー、なんて思いながら隣を見ると、怪盗さんは何やら難しい顔で上を見ていた。
「快斗、どうかした?」
「屋根の上はどうなってるのかなーって。ちゃんと足場があるといいんだけど」
見上げた感じ、フラットな屋根に見える。
だが、実際に見てみないと確実とは言えない、と彼は言う。まぁそのとおりですね。
「見に行く?」
「え、どっから上がるかわかるの?」
快斗の問いには答えず、私はぐるりと辺りを見渡した。
中庭にいるのは私たちだけ。ガラス張りの館内廊下にも人影はない。
中庭を監視するカメラ等もないようだ。……のどかすぎないかね?
来い来い、と手招きすると、快斗が素直に寄ってくる。
「っわ、セレナ?」
「舌噛まないよーに」
腰に手を回して快斗を捕まえると、トンッと地面を蹴った。
飛び上がる体。
少し上がりすぎたが、結果的には問題なく屋根の上へと着地した。
「普通にフラット屋根だったね」
よかったねー、と声をかけるが、快斗は口をパクパクしたまま声を出さない。
なになに?
「……まぁ、セレナだもんね……」
おいどういう意味だ?
なぜに諦めたように溜め息を吐く?
「……余計なお世話だった?」
「ううん、ちがう、びっくりしただけ。ありがと!」
そう言ってニッと笑う快斗は、なんとも可愛い。
こんな可愛い男子高校生どうなの。
私が男子高校生について考えている間に、快斗は館内とつながる出入り口を見つけたらしい。
さて、そろそろ下見も完了かな。
帰ってヒソカにここのこと教えてあげなきゃね。