「何か、欲しいものはあるか?」
学校から帰宅すると、当然のように我が家のリビングで赤井さんが寛いでいた。もう慣れたけど、この人、自宅はどうしてるんだろうか。
確かFBIだったような気がするんだけど、こうも頻繁に一般家庭に入り浸ってていいんですかね。
一般家庭……いや、うち、一般家庭だよね? 一般家庭でいいよね……?
なんてことを考えていたら発せられた一言。
「どうしたの、急に」
「もうすぐだろう?」
何が、と聞き返す前に指差されたのは、壁のカレンダー。
その日付に、あぁ、と息が漏れる。
「ホワイトデーのこと?」
「ああ。何が欲しい?」
見つめられて、うーん、と唸る。
赤井さん、じっと見てくるんだよね。
別に嫌じゃないんだけど、なんかこう、むず痒い。
こういう時、欲しい物はないかと聞いてくれるところが、赤井さんらしいなぁと思う。
っていうか、
「ホワイトデー返すの私の方じゃないの……? その、お花、貰ったし」
うちの男どもは、どこで聞きつけたのやら欧米風バレンタインをしてくれた。
それを考えると、ホワイトデーにお返しをしなきゃいけないのはこっちだろう。
この質問、私がしなきゃいけないやつだわ。
「セレナは菓子を作ってくれただろう」
「ブラウニー焼いただけだよ」
「美味かった」
「それは、どうも」
ふっと笑った赤井さんに、こいこいと手招きされる。
拒む理由もないので、彼の腰掛けるソファーに近づき、隣に座った。
ローテーブルにはコーヒーと洋書。
くそ、様になるな……。
「そういえば、ヒソカは?」
「買い出しだ。足りない物があったら連絡してこいと」
「んー、今は特に……赤井さん飲むお酒は?」
「それは頼んだ」
ビールも飲むが、それよりウイスキー等が好きらしい。
それがね、ロックで飲んでる姿とか、これがまた様になるんですよこの人は。
ヒソカと並んで飲んでると、どこのバーだよって思うね。うちなんですけど。
「で、どうなんだ?」
流したと思ったのに!
赤井さんに諦める気はないらしく、またもやじっとこちらを見つめてくる。
「私ばっかり貰うの、なんだかなぁ」
溜息とともに吐き出すと、目の前の男はきょとりと一度瞬きをした。
それから唇の端に苦笑を乗せて、視線をこちらに流す。
「バレンタインに本命から貰ったんだ。返したいと思うのは、いけないか?」
まったこの男はそういう……!
頭をポンポンと撫でられ、気恥ずかしさがピーク。
逃げるのも不自然だし、と自分で自分に言い訳して、大人しくその手を受け入れた。
「……飴」
「あめ?」
「お返し! くれるって言うなら…赤井さんがいいなら、飴がいい」
「俺は構わないが……」
そう言って言葉を切った赤井さんは、二度三度考えるようにこちらを見ないで頭を撫でて、その後クハッと笑った。
それがあんまりにも楽しそうで、そんな顔が珍しくて。それでも、どうしてそんな表情をするのかもわかっているから、私はといえばじわじわと顔を赤くするしかない。
「セレナも大概、かわいいな?」
「う、うるさい!」
「はいはい」
クックと笑いながら、わしゃわしゃと髪を崩される。
抵抗もできずにされるがままだ。
ホワイトデーのお返し。
マシュマロは、あなたが嫌い。
クッキーは、友達でいましょう。
飴は、あなたが好きです。
なんて、キャラじゃないんですけどぉおお!
ホワイトデー当日。
赤井さんから、おねだり通りに飴を貰いました。
カラフルな飴が詰まったガラス瓶。
キラキラで可愛いんですけど、これあなた、どんな顔して買ってきたんです……?
Precious WHITEday!!!