ゴッホの向日葵を載せた、向日葵ラッピング飛行機が日本に到着するまで、あと少し。
アメリカ出るよ〜、と工藤新一のキメ自撮り写メ付きで快斗から連絡を受けた私とヒソカ、赤井さん(今は沖矢さん)は、時間を合わせて空港にやってきた。
ショップも多いし、暇は潰せる。休日のお出かけ先にはぴったりだ。
沖矢さんまで着いてくるとは思ってなかったけど。何なのこの人、暇なの?
FBI暇なの? 今は沖矢さんだからいいのか……?

カフェでお茶でも飲もっか、と店を探していたとき、私のスマホが鳴った。



「あれ、快斗からライン」

「飛行機じゃなかったか?」

「wi-fiで繋い……」



繋いだんでしょ、と続けようとした私は、ラインの文面を見て息を詰まらせた。

【どあにばくだん】

平仮名のみのその文面は、変換する余裕もなかったことを表している。
ドアに爆弾。

何もない訳なかったか……!



「何かあったのかい?」



訝しげにこちらを見る二人に、見えるようにスマホを傾ける。
流石と言うべきか、二人とも大声を上げることはなく、ヒソカは「へぇ」と一言、赤井さんはピクリと眉を動かすに止めた。



「どうする?」

「どうしようもない、よね」



相手は遙か上空だ。

ドア、恐らく搭乗口だろうと思うが、上空で爆発でもされたら、下手をすれば墜落の可能性もある。
向日葵がどうこうという話ではない。



「貨物室の搬入口、だろうな」



沖矢さんが、赤井さんの口調で言う。

犯人の狙いは、向日葵。搬入口のドアを爆破する前に、ストッパーを外すなりしておけば、爆風で向日葵は外へと放り出されるだろう。
尚且つ、客室には被害が少ない。
それでも、絶対安全ではないあたり、犯人も捨て身ということか。



『お客様にご案内いたします━━』



空港内アナウンスが流れる。
緊急着陸。



「来たな」

「爆発しちゃったね。カイト、乗ってると思う?」



ヒソカの問いに、私と赤井さんは顔を見合わせる。



「……いいえ」

「乗ってない、だろう」



向日葵を追って、ハンググライダーで飛び出した。
と、思いたい。
あの子が怪我でもしていたら、と思うと焦りが生まれるが、今はただ、待つしかないのだ。

キュ、と唇を噛みしめると同時に、周囲から悲鳴めいた声が複数あがった。
振り返ると、スピードが落ちないまま着陸しようとする飛行機の姿。

地面に両輪をつけた機体は、大きく左へと梶を取られたようだ。
止まっていた機体に右翼がぶつかり、炎が上がる。
それでも向日葵がラッピングされた機体は止まらず、さらに左に進路を変えた。

こちらへ、向かってくる。



「セレナ」



赤井さんが私の腕をとる。
周りの人々は、悲鳴とともに我先にとその場から避難を始めていた。

このままぶつかれば、大惨事は免れない。



「セレナ……?」



赤井さんの手をほどくと、訝しげに名を呼ばれる。

ヒソカへと視線を向けると、彼は「わかった」と言わんばかりに小さく笑って見せた。
頼りになる息子ですよホント。



「行こう、シューイチ。ここにいるとセレナの邪魔になる」

「何?」



ぶわり、と私のオーラが広がったことに気づいたヒソカが、赤井さんを促す。
赤井さんは不審そうに、心配そうにこちらを見た。何その表情レアだね!

飛行機くらい、止められるよ。



「セレナ!?」



目前に迫った飛行機を真正面から見る。
すると、背後から聞き覚えのある子どもの声と、視界に飛び込んできた小さな名探偵。

おーい、セレナねえちゃん、だろ?



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