「で、あれは何だ?」
沖矢さん……いや、変声器を切った今は赤井さんというべきか。
顔は沖矢さん、声は赤井さんからの質問。
あれから、なんやかんやでお開きになり、私は帰宅した。
夕飯の買い物はどうしたかって? 忘れたんだよ!
ただいま、とドアを開けたら、リビングに寛ぐ沖矢さんの姿。お前の家じゃねぇよ、のツッコミは、もう諦めた。
「快斗、今、向日葵狙ってるのよ」
快斗から相談を受けたとき、赤井さんはその場にいなかった。そのまま、説明する機会もなく今日に至ったというわけだ。
そのため、赤井さんは今回、キッドの標的も目的も知らなかった。
ちなみに私、赤井さんにはタメ語です。
「ちゃんと理由あってのことだよ。後で快斗本人に聞いてあげて」
「それはわかっている。だが、聞きたいのはそこじゃない」
聞き方が悪かったな、と呟いて、赤井さんは続けた。
「あれは、誰だ?」
その問いに、口角が上がるのが分かる。
気づいたんだ。
━━No.001が承認を求めています。
響く声は、私にしか聞こえない。
承認、と呟いた私を、赤井さんが不思議そうに見つめる。
「もうすぐ帰ってくる頃だから、直接見てみたら?」
「なに……?」
赤井さんが訝しげに口にするや否や、ガチャリ、とリビングのドアが開いた。
ナイスタイミング!
ドアから入ってきたのは、二人の青年。
キッドと、ヒソカだ。
「お疲れさま。上手くいったみたいね」
「バッチリだよ」
「ヘマする訳ないでしょ」
キッドの口から聞こえた馴染みのない声に、赤井さんの眉間に皺が寄る。
快斗ではないことを確信したんだろうけど、正体はわからないようだ。
ま、当たり前なんだけど。
「これがセレナの旦那?」
ピッと赤井さんを指さして、キッドが尋ねる。
おーい、どうしてそうなる? というかどこから得た情報だそれは?
思わずヒソカを睨むと、楽しげに笑われた。
「結婚した覚えが微塵もない」
「じゃあまだ彼氏か」
こらこら、勝手に完結するな。
そうは思うも、もう彼の興味はなくなったらしく、視線は別方向を向いている。
「セレナ、戻して」
「あれ、そのまま帰るの?」
「ここで針抜いてもいいけど。そっちの彼氏には刺激強いでしょ」
「アンタいつからそんな優しい子に……」
思わず目を丸くすると、キッドは呆れた顔で「早くしてよ」と急かしてくる。
まったく、短気な子だ。
「助かったわ、イルミ。後で振り込みに行くから」
「いいよ、セレナの頼みだからね。こっち来るときまでツケにしといてあげる」
「……やっぱり早めに行く。アンタの利子えげつないから」
じゃあね、うん、との会話を最後に、彼の姿は一瞬で掻き消えた。
イルミ。
ハンター世界の、暗殺一家ゾルディック家長男の、イルミさんです。
まぁ私にとっては、息子の悪友、みたいな? そんなに悪い子じゃないよ。
「……で?」
で?と言われても。
未だ眉間の皺を深くする赤井さんに、ヒソカと目を見合わせる。
さて、ハンター世界を知らない赤井さんに、どうしたら説明できるかしら?