「すごーい、仮面ヤイバーだー!」



阿笠博士の新作は、スイカを仮面ヤイバーの形に切る機械、らしい。
何気にすごいよね。
どこで使うんだそれ、とは思うが、探偵団たちが喜んでいるみたいだから、まぁいいか。

場所は阿笠邸。なぜ私がここにいるかというと、簡単に言えば拉致されたのだ。
夕飯の買い出しでも行くか、と家を出た私は、たまたま阿笠邸の前を通りかかった。
「スイカ食べにきませんか?」と呼び止められた次の瞬間には、ずるずると引きずられ、ここに至るという訳だ。



「君は食べないんですか?」



物思いに耽っていた私に、私を呼び止めたのと同じ声がかかる。
目の前にはカットされたスイカ。瑞々しくて、とても美味しそうだ。



「はい、昴お兄さん、フォーク! セレナお姉さんも!」

「ありがとう」



そう、昴お兄さんです。
工藤家に居候、というか留守番?をしている大学院生、沖矢昴。
初めは見慣れない顔、聞き慣れない声に若干戸惑ったが、すぐに慣れた。

歩美ちゃんが渡してくれたフォークで、ひとかけらを頂く。あー、美味しい。
そんな美味しいスイカだというのに、小さな探偵君の興味は先ほどからテレビに集中している。
特集を組んで、ニューヨークとライブ中継を繋いでいるのは、向日葵のニュースだ。
私がじっと見ているからだろうか、隣に座る沖矢さんが声をかけてきた。



「絵画に興味があったとは知りませんでした」

「いや、三億ドルをぽーんと出せるんだから、改めてすごい人なんだなーと思いまして」

「あぁ、鈴木相談役ですか」



沖矢さんとの会話は、基本は敬語。まぁ、知り合いの大学院生、だし?
たまに気を抜くとラフな感じになるが、まぁそこも、知り合いだし? スイカの会に誘われるくらいには仲良しだし?



「おや、彼の隣にいるのは、君のお友達では?」



確かに、画面には私のクラスメイト、園子ちゃん━━鈴木園子が映っている。
すごいよねぇ、まだ高校生なのに、立派に鈴木財閥の一員として働いてるっていうか。
卒業したら益々、こういう風に彼女をみる機会が増えるんだなぁと感じてしまった。



「あーっ、園子お姉さんがテレビに出てる!」

「まじかよ!」

「みんなで見ましょう!」



スイカを抱えた探偵団たちも、テレビの前に集合した。
ニュースは続く。

鈴木相談役が発表した『日本に憧れた向日葵展』。なんと、世界中の向日葵が、日本にやってくるという。これはちょっと見たいな。
警護もばっちり、ということで、相談役自らが選んだ専門家、七人の侍が発表されている。
画面に映るのは六人。あと一人は……



「よりにもよっておっちゃんが七人目かよ?!」



驚いた後、げんなりとした顔を見せる小さな探偵君。
相談役の狙いは、毛利探偵にくっついてくる“キッドキラー”の君の方だと思うけど、ね。

続く会見の最中、相談役の目の前に、どこからか飛んできたカードが突き刺さった。
驚いたのか、カメラがぶれる。次いでアップになったそのカードに、探偵君が身を乗り出した。

さぁ、始まった!



「あれは……キッドカード?!」



おーい、いつからあのカードに“キッドカード”なんて名前ついたの?
キッドのカードだから? 安直すぎやしないかね。

相談役の前に歩み出たどこにでもいそうな青年は、次の瞬間には白衣の怪盗に早変わり。
警備の銃に囲まれる中、ワイヤー銃を使い、その身を宙に躍らせる。
およそ人間外の動きだ。カメラも捉えられていない。



「なんだ? どうしたんだ?」

「キッドですか?!」



探偵団たちがざわめくが、テレビは探偵君が占領している。
画面に張り付くようにして見ているので、私たちは隙間からしか見えないのだ。

やがて、ビルの103階に追いつめられたキッド。
何発かの銃声が響く中、割れた窓ガラスから夜空へ飛び出す白いパラグライダー。逃げられたようだ。
ライブ中継は、一旦スタジオへと戻されている。



「……あれは本当にキッドだったのか……?!」



小さな小さな声で呟いた探偵君に、私の口許は緩んだ。



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