始まりは、快斗がどこからか拾ってきた音声メッセージ。
キッド宛の物らしい。

『二番目と五番目の向日葵を盗んでほしい』

ゴッホの向日葵。
それを盗めというメッセージを聞いたヒソカが、唇の端を上げる。



「この子、よっぽどその二枚がいらないみたいだね」

「え、逆じゃないの? 欲しいから頼んできてるんでしょ?」



ヒソカの言葉に目を丸くする快斗。
私はヒソカの意見に賛成だ。



「手に入れたい“欲しい”じゃないと思う。消すための“欲しい”に聞こえるかな」

「自分の手元にあれば、どうにでもできるからね」

「そっか……」



私たちの言葉に、快斗は考え込む。
その様子を見て、しばらく考えをまとめる時間がいるのだろうと、急かしはせずに待つことにした。

向日葵といえば、最近、フランス・アルルの古民家から見つかったとか何とか。
確かそれが、二枚目の向日葵だった気がする。

メッセージの送り主の意図がなんであれ、キッドに依頼を持ち掛けようとする辺り、“使える物は何でも使え精神”が働いているのだろう。
キッドの専門、といっていいかはわからないが、獲物はビッグジュエルだ。今までも、そしてこれからも、彼はそれしか盗まないだろう。
そんな彼に、絵画だ。



「セレナ、ヒソカ。ちょっと、相談があるんだけど」



漸く考えのまとまったらしい快斗が、改めて私とヒソカの名を呼ぶ。
その声音が真剣で、私たちは思わず顔を見合わせた。

話がしやすいようにと、テーブルにつく。
四人掛けのテーブルで、私の隣にヒソカ、向かいに快斗。いつの間にかお決まりの席。残りの一席も、今はいないが、座る人は決まっている。



「向日葵、盗みたい」



いつになく真剣な快斗は、ぽつりと話し始める。



「このメッセージが届いたとき、寺井ちゃんと二人で聞いたんだ」



快斗の━━正確に言うとその父、黒羽盗一さんの付き人、寺井さん。
私もヒソカも、何度か会ったことがある。
私たちの力とか、面と向かって伝えたことはないんだけど、なんだか感じ取っているらしい。勘の鋭い人だ。
まぁ、そんな人じゃなきゃ、怪盗キッドの手下なんてやってられないよね。
手下、っていうか、保護者だけど。

快斗から語られたのは、寺井さんの過去と、向日葵を守りたい理由。



「このメッセージの送り主が、鈴木相談役が向日葵警護のために集めた専門家チームにいる」

「流石、情報収集が早いね」

「この辺は寺井ちゃんがね。で、どう出てくるのか、様子見しようかとも思ってたけど、ヒソカが聞いて悪意を感じるなら、放っておけない」



そこで一度言葉を切った快斗は、深呼吸を一つ。
俯きがちだった顔を上げて、真っ直ぐに私たちを見つめた。



「向日葵に危害が及ぶのを、止めたい。だから……知恵を貸してくれ!」



そんなの、知恵でも力でも、貸さないわけないのにね。



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