休日。
私とヒソカは、買い出しのために街に出ていた。
ちなみに快斗は寺井さんの店で、赤井さんはお仕事らしく、ここ数日見ていない。
「シューイチ、今日は来るかな?」
「さぁねぇ……連絡無いけど、そろそろ終わる頃なんじゃない?」
「三人分にするか四人分にするか、迷うなぁ」
赤井さんは一度仕事に入ると、うちに来る頻度がまちまちになる。数日見ないのなんてよくあることだが、一家の主夫であるヒソカには悩みの種らしい。
と、いうか、何でナチュラルにうちでご飯食べてるんだろうあの人たち。
「あれ、セレナちゃん?」
名前を呼ばれて、ふっと意識を現実に戻す。
振り返ると、そこには級友、蘭ちゃんの姿が。私服も可愛いねエンジェル!
「蘭ちゃん! 奇遇だねー、蘭ちゃんも買い物?」
「うん、買い物ついでに夕飯の買い出しも。セレナちゃんも?」
「そうだよー」
「ちょっとちょっと、私のこと無視してんじゃないわよー!?」
「無視してないよー、園子ちゃん」
エンジェルの隣にはお嬢様もいましたよ。
園子ちゃん、私服見ると、お嬢様ってのが若干信じられなくなるよねぇ。お嬢様お嬢様してないっていうか、さ。
「蘭ねぇちゃんたち、その人、誰?」
んん?
子どもの声に視線を下げると、そこにはなんと!
体は子ども、頭脳は大人!な、あの我らが名探偵の姿が……!
なんてこった、全然見えてなかったぞ。
おおーう、初めてお目にかかりますね!
わー本物だー!
「この子は? 弟さん?」
「あ、ううん、違うの。うちで預かってる子で、コナン君って言うんだ」
「へぇ……私はセレナ。蘭ちゃんのクラスメイトだよ。よろしくね、コナン君」
そう挨拶すると、名探偵はぴくりと反応してこちらを見た。
何ですか、その不可解なものを見る目は?
「お、……蘭ねぇちゃんのクラスに、こんな人、いた?」
ははーん、俺の知らない奴だな、って顔だった訳ですね。俺のクラスって言い掛けたよね今。
まぁ、名探偵が知らないのも無理はない。
「転入生なんだ、私」
「ふーん……」
「コォラ、がきんちょー! ちゃんと挨拶しなさいよ!」
「ご、ごめんなさい。セレナねぇちゃん、こんにちは」
園子ちゃんに怒られて、名探偵は可愛らしく頭を下げた。
やれやれ、小学生の振りが上手いんだか下手なんだか。詰めが甘いっていうのかなぁ。
「ちょっと、ちょっとセレナ」
小声で呼ばれてそちらを向くと、園子ちゃんが内緒話のポーズをとっていた。
おおう、この距離で?
「そのイケメン誰よ? セレナ、あんた彼氏いたの?!」
そのイケメン、と指差す先に視線を向けると、そこにはじっと名探偵を見つめるヒソカの姿。
……忘れてた。
「あー、えっと、ヒソカっていって……彼氏じゃないよ。強いて言うなら、親子?」
「バッカあんた、ヒソカさんそんな年じゃないでしょ!」
「はは……」
私が親、なんだけど、ね。
園子ちゃんの声に、自分の話だと気付いた(いや、最初から気付いてただろうけど)ヒソカがこちらを見た。
にっこり笑って見せる。
「ボクかい?」
「こ、こんにちは!」
おや、園子ちゃん、目がハートじゃないか。
まぁね、確かにヒソカ、顔はいいから。こっちではピエロメイクもしないし、爽やか美青年、みたいに見えるから。
ただのイケメンだから。
「コンニチハ。セレナがいつもお世話になってるみたいだね」
「いえ、そんな。私たちこそ、いつも仲良くしてもらってます」
「これからも仲良くしてあげてほしいな」
「「もちろんです!」」
……なんかこう、気恥ずかしいというか、なんというか。
ヒソカよ、君はいつから私の保護者になったのかな。なんだその保護者面は。
なんでにっこり笑って私の頭に手を置く!
三人と別れ、私とヒソカは買い出しに戻った。
いやー、思わぬ遭遇でしたね。ちっちゃい名探偵、生意気そうでかわいー。
最後まで、なんか不服そうに私を見てたけどね。自分の知らない間にクラスに人が増えたのが気にくわないのかしらん。
「そういや、なんでコナンくんをじっと見てたの?」
「ん? あぁ、なんでこの子は縮んでるのかなって思ってね」
「……気付いた?」
「わかるよ」
ヒソカには、この探偵世界について詳しく説明していない。
つまり、江戸川コナンが、子どもになった工藤新一だとは知らない。言ってないんだもの。
縮んでるのはわかったが、正体まではわかっていないようだ。あの場で口にしなくてよかったよ……。
「この世界には、人を縮ませる力はないんだろう? だから、何か理由があるんだと思って聞かなかったんだけど」
「その対応で正解。よくできました」
流石に道ばたでこれ以上はまずいでしょう。どこで誰に聞かれているとも限らないしね。
詳しくは後でね、と伝え、この話はいったん終わり。
なお、買い出しを終えて家に帰ると、当然のように赤井さんが寛いでいました。