「ねー、赤井さんとはどうやって出会ったの?」



休日の午後。
ヒソカが入れた紅茶と、赤井さんが買ってきたケーキでおやつタイム中だった。
同じく紅茶を飲む快斗が唐突に言う。



「FBIと接点なんて、ふつー無いでしょ?」

「怪盗との接点も、ふつー無いのよ」



言うと、快斗がぷぅ、と頬を膨らませてみせる。
こら、高校生男子がそんなことしても可愛くな……、可愛い!



「まぁ、あれは……ちょっとした勘違い、だったな」



赤井さんが、答えるように呟いた。
ちなみに、彼だけ珈琲だ。



「ボクも詳しくは知らないなぁ」

「え、ヒソカも?」

「突然訪ねてきて、セレナと見つめ合って、セレナが折れたって感じだったよ」

「なにそれ、ますます聞きたい」



ねーねー、と喚く快斗を見て、ため息を一つ。
別に隠してる訳じゃないし、と、私はあの日のことを思い返した。



その日、ヒソカと待ち合わせをしていた私。落ち合って買い物に行く予定だった。
予定の時間まで少し空いてしまったので、カフェで暇を潰すことにした。
店内に人はまばらだったが、今思えばその中に赤井さんがいたのだ。
気づかなかった自分に説教したい。でもさ、思わないよね? こんなとこでFBIが珈琲飲んでるなんて思わないよね?

カフェオレを頼んで、スマホを取り出す。
すると、タイミング良く着信を告げたところだった。



「……え」



思わず呆けた声が出てしまった。
素早く店内を見渡すが、客はまばら。
小声にするから許してー、と、通話ボタンを押した。



「ちょっと、ジン。何の天変地異の前触れなの? アンタが電話してくるなんて」

『聞いてくれセレナ! ライに逃げられた!』



電話の相手は、ハンター世界での昔馴染み、ジン=フリークス。
滅多に捕まらない野生児だ。
珍しい相手からの連絡に、何かあったのかと一瞬焦ったが、彼は相変わらずマイペースで元気そうだ。



「ライに逃げられた、って……アンタなに飼ってたのよ?」

『っかしーなぁ、すっかり友達になったと思ってたのに……アイツ、俺の飯ぶんどって飛んでいきやがった』

「あー、それはご愁傷様」



ジンの言う「ライ」とは、ライジングバードという、一言で表すとでかい鳥だ。
地方によっては飼い慣らして移動手段にしているところもある。私も何度か乗ったことがあるけど、まぁまぁ安定して飛べるので、アトラクション的要素の需要もある。
略してライとか、ライ鳥と呼ばれるのは一般的だった。

言うまでもないことだが、私の故郷、日本のライチョウとは似ても似つかない、ファンタジーな生き物である。



『あのライ、高笑いして飛んで行きやがって……! 裏切り者だ! 許せん! 俺の飯!』

「アンタがその裏切り者をどうしようと知ったこっちゃないけどさぁ。何で掛けてきたの?」



ジンのことだから、話を聞いてほしくて、なんてキャラじゃないのはよく知っている。
あえて電話してきたということは、何かしら目的があるに決まっているのだ。



『セレナ! ドア貸してくれ!』



ドア、とは、私の念能力のこと。
任意の空間をつなぐ力だ。



「なんで?」

『カイトらと合流して、あのライとっちめる!』



なんて度量の小さい男だジン=フリークス……。
鳥にご飯盗られて激おこなんて、息子が見たら切なくなりますよ?

ジンの言うカイトは、彼の弟子だ。世界規模で追いかけっこをしているが、時々チームを組んで仕事をしている。



「一緒じゃないの? チームで仕事、ってこの前聞いたけど」

『あぁ、はぐれた! あいつらすぐ俺を放っていくんだ』

「そりゃアンタのせいでしょ……あんまり私を当てにしてもらっても困るんだけど?」

『頼む、セレナ!』



この通りだ!と電話越しに聞こえるが、どの通りに頼まれているのかわからない。姿見えないからね。
やれやれ、とため息を吐いた私は、ふと視線を感じて周囲を見た。
……ガン見、されています。怖っ。



『頼むってセレナ、礼なら今度』

「ちょっと、後で掛け直すわ」

『……あぁ、わかった』



ジンも私も、お互いハンターだ。電話越しでも、相手の気の変化は伝わる。
全部説明しなくていいから楽だよねぇ。

電話を切った私の横に、一人の男が立った。



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