アルカナの娘 | ナノ




「どーいうことだコラ訳を言えテメェデク!」



爆豪くんが右手を爆発させながら緑谷くんに詰め寄る。凄い形相だ。
どうやら二人は知り合いらしい。浅からぬ因縁の仲、みたいな?

個性の反動だろうか、指が腫れ上がってしまっている緑谷くんは、爆豪くんからの衝撃を予想するかのようにぎゅっと目を瞑った。
危ないなあ。

止めようか、と思った瞬間、伸びてきた白い布のようなもの。



「んだこの布、固……っ!」



絡め取られた爆豪くんは動けない。
正確なコントロールだ。やるな相澤先生。

あの布、“俺”が昔使っていたのと同じものならば、炭素繊維に特殊合金の鋼線を網み込んだものだろう。
扱いは結構難しいんだけど、使いこなすことができれば、そこそこ強力な武器になるんですよ。



「ったく、何度も”個性”を使わすなよ。俺はドライアイなんだ!」



カッと目を見開く相澤先生。可愛い。
え、まって、どうしよう……この子可愛い……。

そんな私の心情とは裏腹に、残りの種目はさっさと終わり、結果発表の時間。
さーてどうなるかなー。



「ちなみに除籍は嘘な」



私たちのやる気を出させるための合理的虚偽、だと。
はーーーーー!?と驚く皆を余所に、「あんなの嘘に決まってる」とポニーテールの女の子が呆れたように呟いた。八百万さん、だったかな。

除籍の話……本気だったと、思うけど、な。

これで終わりだと告げた相澤先生。教室にカリキュラムとかの書類があるから読んでおくように、とのこと。
緑谷くんは保健室のリカバリーガールのところへ行くように言われていた。あの人まだいるんだな。
指示に従い、皆と教室に戻ろうとしたところで、先生から声が掛かった。



「雨宮、お前は残れ」

「え、はい」



なんだろ。教室へと帰って行く皆を見送りながら考える。
初日から担任に居残りさせられるとか。私、何やった? そういえばテスト中もやけに見られていた。

えー……あー、入試の件、とか?



「入試の時の話だが」



やっぱりな!
当たってしまった予想に思わず虚ろな目になってしまう。



「あれは、何をした?」



相澤先生の目が細められる。眼光鋭い。

あれ。あれとは、あれだろう。市街地を丸ごと葬った、あれ。
何をしたと言われると、個性でどーんした、としか言えないんだけど……。
なんてことを思いながら、割とその通りのことを話してみた。ますます目が細まった。Why!?



「違う。その前だ」



その前、とは?



「他の受験生の意識を奪っただろう。何をした?」



あぁー、あれか。
いや、あれはほら、こう、カッとね?
殺意をね? 飛ばしてね?
……なんた言ったら怒られそうな雰囲気なので、とりあえず昔と同じ言い訳を。



「……特別、何かをしたつもりは、ありません」

「なんだと?」

「やるぞーって思って、気合い入れたら……あんな感じに」



当時と同じ答弁。
違うのは、当時は確かに気合いを入れただけだったけど、今回は明確に殺意を込めたってこと。
ま、言わなきゃ分かんないから、いいよね?



「……そうか」

「はい」

「ちょっとやってみろ」

「はい?」



早よ、と急かされる。
え、ええー? やってみろって、ここで貴方に向かって殺気飛ばせってこと?



「そう言われても……急に気合い入りませんよ」

「入れろ」



そんな無茶な。
そのまま睨めっこ状態になったが、相手は引く気がないらしい。なんなんだ。

むむ……仕方ない。
っていうか、ちょっとイライラしてきたぞ。気合いだって言ってんだろー!
何疑ってんだよー! 生徒信じろよー!
そんな思いを込めて、一度目を瞑ったあと、思いっきりカッ!とやってやった。



「っ!」



瞬時に距離をとり、捕縛武器に手をかける相澤先生。
イレイザー状態でこちらを見る顔は、驚愕の表情だ。流石プロヒーロー、これくらいの殺気じゃ意識は奪えないか。

じり、と距離を図られる。
え、まって、そんなに怖がられると流石に悲しくなるんですけど。



「……もういいですか?」



ふっと気を霧散させて声をかけると、はっとしたように瞬く先生。
ドライアイなんでしょー。ちゃんと瞬きしてー。

考えるようにまだこちらを見ていた先生だが、やがて「行っていいぞ」と小さく呟いた。
よ、よーし、何か知らないが退散だ!


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