担任の相澤先生によって、私たちはグラウンドに連れ出された。
体操服もデザイン変わっていませんねぇ。
入学式も、ガイダンスもブッチで、テストをやるらしい。その名も個性把握テスト。
「爆豪、お前中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「67m」
「個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」
早よ、と相澤先生に急かされた爆豪くんと言うらしい男子生徒が、位置に着く。
「死ね!」
威勢のいい掛け声とともに、彼の掌が爆発。ボールはとんでもない高さへ飛んでいく。
派手な個性だ。
しかし死ねって。ヒーロー志望の掛け声としては如何なのそれは。
思わず呆れた目になってしまったのは仕方ないよね?
ボール投げや短距離走など、中学までの体力テストでは、個性の使用は禁止されていた。それを、ここでは思いっきり使って記録を取るらしい。
自分の個性の限界を知る。なるほどね。
クラスメートの誰かから、面白そう、との声が挙がった。
「面白そう、ね。これから三年間、そんな腹積もりでやっていくつもりかい?」
最下位は除籍処分。
相澤先生の口から出た衝撃の発言に、一気に場に緊張が走る。
「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ!」
先生が圧をかけてくる。
初日から除籍なんて、困るしねー。
私の個性は“振動”。体力テストにはあまり生かせない。仕方ない、ここは素の力で行くしかないか。
気を持ち直して、種目に望む。
「次、雨宮」
「はい」
……あの、なんか、めっちゃ視線感じるんですけど。
相澤先生めっちゃ見てくるんですけど、私、何かした?
内心首を傾げつつ、ボールを投げ終えて戻る。まあまあ飛んだよ。
入れ違いに、男子生徒が入った。
「緑谷くんはこのままだとやばいぞ」
眼鏡の男子(飯田くんというらしい)が、円に入っていった男子生徒を見ながら呟く。
あの子は緑谷くんというのか。確かに、今のところ、これといってすごい記録は出していない。
でも、なんか、彼……感じるんだよねぇ。
思い詰めたような顔をしていた彼は、決心したように顔を上げ、思い切り腕を振った。
「46m」
「な━━今、確かに使おうって……!」
「個性を“消した”」
驚く緑谷くんに、相澤先生の声がかかる。
「つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」
それな。
いや、緑谷くんがどうとか言うわけじゃなく、あの入試がよくないってことね。
“俺”の頃から一向に変わってないんだもん。
「消した! そうか、個性を消す個性! 抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!」
んん、よく知ってるな、緑谷くん。さてはヒーローオタクだな。
私も言われるまで気付かなかったけど、あのゴーグルに、先ほど一瞬光った赤い瞳。アングラ系ヒーローのイレイザー・ヘッドだ。
同業者……いや、元同業者として、プロヒーローの情報は仕入れてます!
相澤先生、イレイザーなのか……イレイザーが担任なのか……楽しくなってきた。
改めて担任を見つめる。
肩にマフラーのように巻いているのは、捕縛武器かな。
あー、なんか懐かしいな。昔は俺も使ってたなぁ。あれ便利なんだよ。
ふっと遠い目になった私を余所に、相澤先生に何か言われていた緑谷くんは二投目に入った。
何気なく注目する。
ぞわりと、肌が粟だった。
705.3m。
「先生━━まだ、動けます!」
今のは、今の力は。
それ、アイツの━━……ああ、そうか、そういうことか?
なるほど、ね?
トシ。
お前がここにきた理由が、ようやく分かってきたよ。