アルカナの娘 | ナノ




あっっっぶねー。
というのが正直な感想だが、結果的に合格したから、まぁ結果オールマイトだね!

入試、実技試験。
仮想敵だけでなく、市街地ごと葬り去ってしまったときは流石に冷や汗をかいた。
間違いなくポイントは稼いだと思うが、やらかしたのは事実なので、マイナスがどれだけあるのか。非常にハラハラしながら結果を待っていた訳です。

倍率300倍を無事くぐり抜け、晴れて雄英高校の一年生となった私。
真新しい制服が、なんともこそばゆい。懐かしいとは思えなかった。なにせ今度は女子制服だからな。

勝手知ったる校舎内。ふらりと歩き出せば、足は自然と進んでいた。
教室が見えて、立ち止まる。3-A。
……おや?



「違った……」



思わず、最後に過ごした教室へと来てしまった。仕方なくない?
間違えた、と思って踵を返す私に、背後から呼びかける声。



「君、一年生だね?」



反射的に振り返る。
痩せた、長身の男が、廊下の端に立っていた。



「ト……ッ!」



喉元まで出掛かった言葉を何とか飲み込む。
おいおい。
なんて姿だよ、お前。
ゆっくり歩み寄る痩身に胸が締め付けられる。



「こんなところでどうしたの? 教室はこっちじゃないよ」

「……迷って、しまって」



動揺が悟られないように、なるべく平淡な声に聞こえるよう話す。
こんなところでどうしたの、なんて、こっちの台詞だ。

俺の知ってる姿じゃない。
でも、俺がお前を、間違えるわけないじゃないか。



「あれ、案内出てなかった?」

「見落としたかもしれません」

「そっか。大丈夫? 案内しようか?」

「大丈夫、です」



ぺこりと一礼して、逃げるようにして足早にその場を去った。
これ以上あの細い身体を見ていたら、余計なことまで言ってしまいそうだ。

別に、隠してる訳でもないんだけど……ん?じゃあ逃げなくても良かったんじゃね?
自分自身、よくわからない問答を心の内で繰り返しつつ、長い廊下を歩く。

やがて見えたドア。1-A。ついたついた。
ガララ、と開けると、いくつかの視線が注がれた。
とりあえず、目があった女子生徒に笑い返す。



「おはよう」

「おはよう。蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「雨宮真咲。よろしくね、梅雨ちゃん」



個性が蛙だという彼女と話している内に、他の生徒とも挨拶を交わした。
よしよし、コミュニケーションは順調だな。



「どなたかお知り合いはいらっしゃいますの?」

「んーん、いない。同じ試験会場だった人もいないみたい」

「私、耳郎ちゃんと一緒だったわ」

「えっホント? 気付いてなかった」

「ケロ」



やっぱりこのくらいの年齢になると、自然と男子・女子で分かれるなーなんて。歴とした女子生徒の私は、クラスメートの女子に囲まれながら思うのです。

クラスを眺める。んー、席が21個あるんだよね。確か、一クラス20人だったと思ったんだけど。入試で同点が出たとか、そんな感じかなぁ。



「お友達ごっこがしたいなら余所でやれ」



聞こえた声に、ドアへと視線を移す。
寝袋からのそりと抜け出た男が、のっそりと立っていた。なかなかのインパクト。



「はい、静かになるのに8秒かかりました」



いや、むしろこの状況で8秒で静かになったのすごくない?
  


「担任の相澤消太だ。よろしくね」



……ね?

ずきゅん。
なんか、胸が鳴った。


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