アルカナの娘 | ナノ




講堂に集められた受験者を前に、実技試験の説明をするのはボイスヒーロー、プレゼント・マイク。
ここ雄英高校は、教師陣も一流のプロヒーローたちだ。
声のお仕事をしているだけあって、イイ声だな。

周囲が配られた資料を真剣に読んだり、果敢に質問をしたりする中、私はぼんやりと説明を右から左。
10分間の模擬市街地演習。仮想敵を狩るやつた。知ってる。やったことある。

“俺”の時と変わってねぇじゃねーか。



『最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう』



ふと耳に入った台詞に、視線を壇上へと戻した。



『━━Plus Ultra(さらに向こうへ)!』



あぁ、懐かしい校訓だ。

説明後、受験番号ごとに割り振られた演習会場へと移動する。受験生同士で協力しないよう、同じ学校でも会場は分けられているようだ。
前はそこまでしてなかったと思うけど、まぁあれから随分経ってるし。お友達同士、協力して合格しようってやった世代があったのかもね。

演習会場の前に立つ。



『ハイスタート!』



拡声器を通した声が響く。
すべての演習会場が見渡せる場所にいるプレゼント・マイク。
突然の試験開始に戸惑う受験生たちに、『どうしたぁ?!』と彼の声が響く。
この分じゃ、他の演習場も同じような感じみたいね。

まーそうよね。
でもねぇ。



『実戦じゃカウントなんてねぇんだぜ、走れ走れー!』



その通りだ。
事件も、災害も、「今から起こりますよー!」なんて宣告はしてくれない。始まりはいつも突然。
ヒーローなら、即座に動けなきゃ話にならない。

一瞬後に状況を把握し、我先にと駆け出した人の群を眺める。
私も行こうか、と足を出しかけて、ふと動きを止めた。

ヒーロー科最高峰、雄英高校。
先日この町に現れた、ナンバーワンヒーロー。
二つを結びつけるのは強引な仮定だが、たぶん、合ってると思うんだよなぁ。

なぁ━━見てんだろ、トシ?

問題の多いこの試験方法。
あの時だって議論になったらしいのに……変えなかったんだから、同じ事やっても、いいよな?

ゆっくり目を瞑る。
そして、明確な感情を持って開いた。カッ。

視線の先で、人の群がバタバタと力を失い、倒れていく。
久しぶりにやったけど、できるもんだね。

かっこよく言うと、覇気。
込めたのは純粋な殺気だ。強い殺意は、時に凶器になる。耐性ある人には効きが弱いけど。



「ごめんねー」



意識を飛ばした子どもたちに小さく謝る。
でも、これくらい耐えられないと、ヒーローとしてはやっていけないんじゃないかな?
そんなに強くしたつもりがなかっただけに、思わずポリポリと頬を掻いてしまう。

さて。
まぁそんなこんなでライバルはいなくなった訳だが、このままでは0ポイントだ。



「よっ、こい、しょー」



子どもたちを一人ずつ担いで、演習会場の外へと下ろす。
くっ、でかいなコイツ。
持てなくはないけど地味に辛い。

人っ子一人いなくなった模擬市街地はガランとしているようだが、奥では仮想敵が待ち構えているはずだ。

ぴと、と手を地面に当てる。

私の個性は、振動だ。
地震から肩こりの治療まで、調整すれば用途は多い。

対象は仮想敵だから手加減はいらないとしてー、範囲を演習会場内に絞ってー、どー……

どーん!と言う前に、ドドドドド、と街が崩れた。
あれま。ちょっと、やりすぎ、た?
……テヘペロ。


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