己の感情を自覚したのはいいものの、それで現状が変わるわけではない。
とにかく、早急にリカバリーガールに診せなくては。瀕死と言って過言ではない
その衝撃からか、彼の肘が少し崩れた。慌てて注視する。
あの親玉の個性だろう。相澤先生の肘が不自然なほど壊れている。
「……怖い個性だな」
思わず呟いて、思案した。このままでは派手に動かせない。
そんなとき、脳裏に蘇ったのはやたらと上機嫌で跳ねる校長の声。
「“停止”かな?」
“反転”の個性でこうなっている私の個性が、本当に、“停止”なら。
俺の━━アルカナと同じ、停止なら。
「━━━━ストップ」
小さな囁き。
明確な意志を持った発動ワードによって、相澤先生に掛けられた崩壊の個性は“停止”した。
よし! 使える!
止めたい、と強く念じながら「ストップ」と言えば、対象を文字通り停止させる 、
これにはオマケがあってね。この“停止”は、上書きされないんだ。
あの親玉が、再び相澤先生の肘に崩壊の個性を使おうとしても、俺の個性がそれを弾く。停止を解除しない限り、相澤先生の肘は守られたぜ!
よしよしと思いながら、一歩。
「行かせる訳ないだろォ!」
モブ共め。
倒し損ねた敵たちがゾロゾロと行く手を遮る。
オールマイトは黒幕たちと向き合っているから、こっちにまで手は回せないよね。
入り口付近で不安そうにこちらを眺めるクラスメイトたちも然り。
「っつーか誰だテメェ!」
「……誰だろうね?」
にこりと微笑めば、挑発に乗った敵がこちらに飛びかかってくる。
うん、遅い。
自慢じゃないが、こちとらオールマイトのスピードに着いていけるのだ。これくらい、避けるのは苦もないね。
ズシャ、と地面とコンニチハした敵を眺めて、ちらりと振り返る。
まだまだ元気そうなのが何体かいるな。
「相澤先生ッ!」
オールマイトが助け出した緑谷くん、梅雨ちゃん、峰田くんがこちらの状況に気付き、駆け寄ってくる。
緑谷くんの声に反応した敵が、彼らへと視線を向けた。
━━させないよ?
瞬間、場を包んだ空気は我ながら冷たく重かったと思う。
あれだよ、気合いだよ気合い。まぁ、殺気とも言う、かな?
もちろん緑谷くんたちの方には行かないように気をつけたけど、少しは漏れたかなぁ。
現に、固まってしまった三人がこちらを見る目には、警戒の色が強い。
ちなみに、敵たちは一斉に倒れましたよ。
「い、今のは……殺気……?!」
「怖かったわ……」
「な、なんだよアレェ……お、お、俺ら殺されちまうよぉ……っ」
殺しませんよ!?
心の中で突っ込むも、下手なことをいうとボロを出しそうなので、口をつぐんで曖昧な笑みを浮かべた。
そんなますます怪しい私を前に、息を呑んで一歩踏み出したのは緑谷くんだ。
「貴方は、一体……ひょっとして……!」
何かに思い至ったらしい彼が、目を見開いてこちらを見る。
「でも」とか「そんな」とか「まさか」とかブツブツ呟き始めるのは、最早緑谷くんの芸だね。
彼の推測は当たりなんだろうけど、素直に頷いて自己紹介をする訳にもいかない。
私にできることといえば、なるべく怖がらせないように雰囲気を和らげて笑うことくらいだ。
「訳有って名乗れない。でも、君たちの敵ではないのは、信じてほしいな」
「……はい。でも!」
「でも、名前が分からないと呼びにくいわ」
納得できない顔で食いついてきた緑谷くん。その台詞を引き継いだのは梅雨ちゃんだ。
彼女の大きな瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
「……そう、だな……じゃあ、
後に羞恥で頭を抱えることになる亡霊の爆誕である。