「━━今日は残念、アンラッキー。自分の身を守ることに集中しよう!」
いつも聞き流している占いが、何故だか妙に頭に残った。今朝の出来事である。
今日のヒーロー基礎学は救助訓練。なんと専用の施設に行ってやるんだってさ。頑張らないとねー、なんて思いながら家を出て、まっすぐ学校へ向かっていた。
そんな通学途中で遭遇した光景がコチラになります。
「このガキがどうなってもいいのかァ!?」
飛び交う悲鳴の真ん中に立つ、異形系の敵。朝っぱらからご苦労なことだ。非常に迷惑ですね。
その腕の中には、泣くのを必死にこらえる小さな男の子。泣くな!とでも恐喝されたのか。逃げる途中で転けて捕まってしまったらしく、膝には擦り傷が見えた。
━━あぁ、痛いだろう、怖いだろうに。
「くそっ、近寄れねぇ!」
「ヒーローはまだ来ないのか?!」
周りの大人たちは、人質をとる敵を前に動けないでいる。息を呑んで見守るだけだ。
さて、どうする。
こんなとき、なんで“俺”は“私”なんだと思うね。私はただの学生で、まだ何のライセンスもない。ヒーロー活動ができないんだ。
早く来い、ヒーロー。
心の中で呟いた、そのとき。
轟音とともに、何かが空から降ってきた。
「もう大丈夫! 私が来た!」
オールマイトォ!と、周囲から歓声が上がる。
砂煙を上げて立ち上がったヒーローは、きらーんと笑ってその声に応えてみせた。
私が来た。その言葉と姿に一気に安心したのだろう、先ほどまで唇を噛んで嗚咽を殺していた男の子は、今はきらきらした目でオールマイトを見つめている。
……やっぱすごいよ、トシ。
でもな?
お前も、今日一緒にヒーロー基礎学だろう?
朝から何件ヒーロー活動してるか知らないけど、活動時間保つんだろうな?ん?
「クソォオオオ!」
「逃がさないよ!」
ナンバーワンヒーローの登場に己の不利を悟った敵は、早々に人質を投げ出して逃亡を図った。
易々見逃すオールマイトじゃない。
瞬時に追いつくと、その背中にパンチを一発。随分手加減したのだろうが、敵はあっけなく吹っ飛んだ。
周囲から再び歓声が上がる。
そんな中、私は投げ出された男の子へと歩み寄った。
「大丈夫?」
「っ、だい、じょうぶ……オールマイトがたすけてくれたから!」
「そっか。痛いのと怖いの、我慢してえらかったね」
手当てしないとね、とできるだけ優しく撫でれば、男の子は真っ赤な目でへにゃりと笑った。
人々に囲まれ、賞賛されていたオールマイトがこちらに気付く。
私と目が合うと、驚いたようにその身体がびくりと跳ねた。やれやれ。
「朝からお疲れ様です、オールマイト先生」
「せ━━雨宮少女!やぁ!おはよう!」
今「先輩」って言い掛けただろ。
じと目で睨んでやれば、サッと目を反らされた。こら、こっち見なさい。
目線で、男の子を指す。言いたいことは伝わったようで、オールマイトはパッと笑うと、足取り軽くこちらへと近づいてきた。
助けた男の子へのフォローも、きちんとしないとね!
よしよし、と頷き掛けた、次の瞬間。
目に入った動きに、私の体は咄嗟に駆けだしていた。
「くたばれオールマイトォオオオッ!」
倒したはずの敵。
起きあがったそいつの手から放たれた光線は、奴の個性によるものだろう。どんな個性かは知らないけど。
オールマイトなら避けられる。
でも今、オールマイトの延長線上には、男の子がいる。だから彼は避けられない。
━━自分の身を守ることに集中しよう!
……馬鹿言うなよ。
それじゃ、ヒーローを名乗れないでしょ!
「先輩ッ!?」
我ながらなかなかのスタートダッシュだった。敵の個性とオールマイトの間に体を滑り込ませ、自らの体を以て盾になる。
衝撃と、次いで訪れる熱さ。
一瞬で立ちこめた煙の中、思考がスローモーションになる。そんなに痛くないな、と頭の隅で思っていたが、意に反して体は地面へと倒れ込んだ。
「先輩━━━━……ッ!」
あぁだから、先輩って呼ぶなっつーのに。