アルカナの娘 | ナノ




「そういえば、先輩。相澤くんのことなんですが」



昼食を再開させた私たち。
もぐもぐと唐揚げを頬張っている私を前に、トシは真顔だ。
相澤先生のこと?
なんだろ、と首を傾げつつ、唐揚げを飲み込んでから口を開いた。



「なに?」

「アルカナとして彼に会ったこと、あります?」

「んん?」



アルカナとして……?
思わぬ問いに、遠い記憶を掘り起こす。なにせ、“俺”がプロヒーローをしていたのは15年も前だ。

自慢じゃないが、それなりに働いていた。メディア露出なんかはオールマイトに任せっきりだったけど、救助活動なんかで人と接した数は多い。
その中に、相澤先生が……?



「いたかなぁ……なんで?」

「彼、アルカナの戦闘服コスチュームを知ってたんですよ」



昨日の戦闘訓練の様子を録ったDVDを見せたのだと、トシは語った。
私の戦闘服を一目見て、アルカナと結びつけたらしい。スカートを除けばまんまアルカナの戦闘服だから、間違っちゃいないけど。

緑谷くんが以前言っていたとおり、アルカナの姿を収めた動画なんかはほとんど出回っていないようなので、やはりどこかで会ったことがあるのだろう。

でも、まぁ、別に。



「特に問題ないよね?」



何か気にすることあるの、と問いかければ、トシは何とも言えない微妙な顔をしてみせた。
はぁああ、とこれ見よがしに重い溜め息を吐かれる。なんだよ。

釈然としない面もちで見つめていれば、トシはキッとそのブルーアイズを煌めかせて見返してきた。



「いいですか? アルカナは、今や伝説のヒーローなんです!」

「……それが?」

「その伝説の! しかも大ファンの! 憧れのヒーローが生き返ってきた、なんて知られたら!」

「待て待て、生き返ってはない。生まれ変わったんだって」

「世間にバレたらどうなるか……!」



あ、ダメだ聞いてないな。

そりゃあ、死んだと思ってたヒーローが実は死んでなかったとなれば騒ぎだろうが、俺、あの時確かに死んだし。
生き返ったわけでもないし。

"俺"は"私"として、雨宮真咲として生まれたのだ。本人的には、「別人だよ?(アルカナの記憶持ってるけど!)」って感じなのだがね。



「器が変わっただけでしょう。中身は変わらない」

「魂とか言っちゃうのか……」

「相澤くんにとって、先輩は今も憧れのヒーローなんですよ」

「……私にとっては相澤“先生”なんだけどなぁ」

「それです!」



憧れ焦がれる伝説の人が、自分のクラスの生徒だ、なんて相澤くんが知ったら卒倒しちゃう!と騒ぐトシに苦笑する。

━━ょーたくん




「……ん?」

「どうしました?」

「相澤先生って……下の名前、なんだっけ」

「消太、ですが……それが?」



消太。相澤、消太……消太くん。
━━しょーたくん



「……あー……」




「アンタより、すごいヒーローになるんだ!」

「それは楽しみだ。未来のヒーローの名前を教えてよ」

「……しょーた!」




「あの時の少年かぁ〜……」



街中で敵が暴れていた。
必死に逃げる子どもが、その毒牙に掛かる……前に救い出したんだよ。
そのときに交わした会話、だと思う。
キラキラした目で見上げられた、と思う。
何せ数十年前の話……ううん、でも、きっとあの子だ。“しょーたくん”だ。



「やっぱり会ったことあるんですね?!」

「かなり昔ね。そうか、あの時のしょーたくんか……」



十分、アルカナよりすごいヒーローになってる。有言実行だな!

それにしても、大きくなったなぁ。
しみじみと呟くと、トシが半目になってた。おっさんくさいです、だって。
おっさんだっつーの。中身はね。


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