アルカナの娘 | ナノ




(オールマイト視点)

「相澤くん。ハイこれ、今日のビデオ」



放課後。
職員室で呼び止めた相澤くんに、先ほど焼いたDVDを渡す。
中身は、午後に行った1年A組の戦闘訓練の様子を撮影したものだ。



「あぁ、ありがとうございます」



そのまま踵を返す、かと思いきや、予想に反して彼は視線を逸らさない。
珍しいことだ。
何かあったかと思っていると、何かあったかと尋ねられたのは私の方だった。



「なんか嬉しそうですよ」

「えっ、そうかな?!」



そりゃあね?!
思わぬ再会を果たした後だからね!?
……なんて言えるはずがないので、曖昧に笑っておいた。

なんでもない、とは言えない。自覚はあるが、嘘は下手だ。なるべく吐きたくないと思うし、吐かなくていいような生き様でありたいと思う。
脳裏に浮かんだのは、「隠し事が下手だな」と笑う先輩の顔だった。

胡散臭いものを見るような相澤くんの視線。
いくら彼の方が教師歴が長いとはいえ、一応は私の方が、年齢もヒーロー歴も先輩なんだけどなぁ。彼は私に対して、なかなかに当たりがキツイ。

それはそうと、と相澤くんが口を開く。



「雨宮と一騎打ちをしたそうですね。仕込んだんですか」

「一騎打ちって……まぁ、ウン。やっぱりちょっと気になるじゃない、彼女」



二人一組のチーム戦。一人余るなら彼女を、と考えたのは本当だ。入試以降、何かと気になる彼女を、もっと間近で見たいと思った。

まさか思ってもみなかった事実を知ることになるとは、流石の私も夢にも思わなかったな!



「で、どうだったんです。気合いとやらは使ってきましたか」

「いや……あ、そうだ、見た方が早いよね。ちょっと彼女のところだけ再生しよう」



自席のパソコンにDVDをセットして、動画を再生。



「相澤くん、座る?」

「結構です。早よ雨宮の部分にしてください」



言外に長居する気はないと告げられる。相澤くんの性格的に、生徒一人一人の動きを確認するはずだけど……残りは後で一人で見る、ということなのだろう。
それだけ先輩を気にしてるんだなぁ。

舞い降りた沈黙。ウーン、私、これ苦手。
早送りを進めていると、不意に、背後に立つ相澤くんがガッと机に手をついた。



「こ、れは……」



あぁ、と、納得する。
場面はちょうど、雨宮少女の全身が映し出されていた。

彼女が身を包むヒーロースーツを見て、心がざわついたのは、はっきりと自覚できた。それほどまでに、似ていたのだ。
細身の黒スーツが連想させるのは、一人のヒーローの姿。

━━スーツは、男の戦闘服だろ?


シュルリと黒いネクタイを緩める横顔を、今でも鮮明に思い出せる。
でも、



「あれ?」



先輩━━アルカナは、その性格からか露出が少なかった。
メディアには出なかったし、だからその顔を、姿を知っている人は少ないはず。
先輩が亡くなったのは15年前。相澤くんはそのころ、15歳くらいだから……接点は、なかったんじゃ?



「……何ですか」 

「相澤くん、先輩を……アルカナを、知ってるの?」

「アンタ俺を馬鹿にしてるんですか」



伝説のヒーローですよ、と睨まれる。

そりゃあ確かに、私の相棒サイドキック・アルカナは、一部では伝説と呼ばれて語り継がれているのは知っている。だけど、それだって都市伝説のような扱いだ。
そうじゃなくて、と言葉を繋ぐ。



「彼女のスーツを一見して、アルカナと結びつけたんだろう?」



言えば、相澤くんはもとから厳しい目元を更に厳しくして、ディスプレイの雨宮少女を睨みつけた。
怖い。怖いよ相澤くん。仮にも先生が教え子をそんな目で見ちゃだめだよ!



「……彼は、特別ですから」



それきり黙ってしまった相澤くんに、どうしていいか分からなかった。
ひどく重い響きを持ったその声は、しばらく耳から離れなかったくらいだ。

どこかで目撃したか……もしかしたらその昔、先輩が助けたことがあるのかもしれない。
私にとって先輩が特別な存在であるように、相澤くんにとっても、何か特別な存在であるらしい。コアなファン、ってやつかな?



「キミ、ひょっとして……アルカナのこと大好きだろ?」

「うるさいですよ」



否定されなかった。


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