アルカナの娘 | ナノ




娘、娘ね。
なるほどね!

オールマイトが決死の覚悟!みたいな顔で口にした単語に、ついつい爆笑してしまった。
そうね、そう考えることもできるね。
アルカナのコスチュームを身にまとった少女を、身内と考えるのが普通よね!

死んだ男が女の子になって舞い戻ってきてるなんて、考えませんよねぇ!



「っふ、は、オール、マイト……」



未だ引かない笑いの中、虚を突かれて困っている巨体を見つめた。笑いすぎて息も絶え絶えだ。
意を決して聞いたんだろうに、爆笑してごめんよ! でも仕方ない。

っていうかさぁ!



「あんなに四六時中いっしょにいて、いつ、アルカナに子種仕込んでる暇があったと思ってんだよ……っ」



ひぃーっ、たまんねーな!
ダメだ、一度ツボるともうダメ。なかなか笑いが引かない。



「いや、それはその、先輩も男の人な訳だし……彼女とか」

「見た、こと、あんのか……ふはっ」

「……ないね」



ふはは、何せヒーロー活動にいっぱいいっぱいで、彼女とかいなかったからな!
オールマイトったら何かあるとすぐに飛んでいくタイプだから、その相棒であるアルカナも、必然的に飛び回る羽目になっていた。それこそ年中無休24時間、ほんとよく働いてたと思うよ。
そんな訳で俺に彼女なんていなかった。娘なんているはずがないのだ!
……あ、なんか悲しくなってきた。

ふー、と息を整える。



「雨宮少女……」

「そう、私は雨宮家の娘だよ。アルカナの娘じゃない」



歴とした雨宮の両親のもとに生まれた子どもだ。なんならDNA検査したっていいぞ。器は立派な雨宮産。
中身が"俺"なだけで。

ちなみに、うちの両親は、なんというかほわーんとした人たちだ。
前世持ちであることは早々にバレたが、「ほら〜やっぱり私の言ったとおりでしょ!」「母さんの転生説の勝ちか……」で済ました人たちである。
ちなみに父さんは「賢者のような個性持ち説」派だったらしい。

詳しくは話していないので、前世がアルカナだったことは知らない(はず)だ。
こんな両親なので、本当にのびのび育ってきました。自由にさせてもらえてるし、感謝しかない。



「でも、君のその格好は」

「アルカナっぽいでしょう。スカートだけどね」



ピチピチの女子高生がスカートの裾を持ってひらりと回ってやってるのに、難しい顔でこちらを見るオールマイト。
なんだよ、ノリ悪いな。

アルカナの単語に反応したのか、さっきより目が険しい。



「もっと突っ込むところあるでしょ。なんで四六時中いっしょにいたって知ってるの、とかさぁ!」



言いながら、再び床を蹴り、突っ込んだ。
モーション無しの動きだったにも関わらず、一瞬で防御の姿勢をとるオールマイトには関心する。
その目が「確かに!」と語っていた。

考えろよ、トシ。
私が誰なのか。
そして俺ならこの後━━どうするか。



「っは!」



それなりに力を込めた一撃は軽々と弾かれた。
返される拳に、いつもの力はない。反射的に動いているだろうに、生徒相手だからと手加減できているのは中々優秀だな。

ネクタイを緩めれば、一層の警戒。
そうねぇ、この仕草、嫌というほど見てきたはずだもんね?
普段はネクタイとして首もとに収まる、俺の捕縛武器。くいっと緩めるこの動きは、その後のための予備動作だ。

伸ばした捕縛武器をそのまま投げ捨て、隙を見て跳躍する。



「んんッ!?」



武器から手を離すとは思っていなかったのだろう。不意を突かれたオールマイトは、慌ててそれを払いのける。
そんな様子を横目に、くるりと回って、核兵器に着地……する直前で、着地点にあったはずの物がなくなった。
流石にナンバーワンヒーロー。早いな。

仕方なく床に着地した私を、素早く核兵器を回収した男が見つめている。
立ち上がり、正面から視線を返した。

しばらく見つめ合ったところで、先に口を開いたのは向こう。



「先輩なら……飛ぶと、思いました」



信じられないように、しかし確信を持ったかのように煌めくスカイブルーの瞳。

ふふん、上等。



「気付くの遅かったね、トシ」



タイムアップのブザーが響いた。


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