アルカナの娘 | ナノ




第一戦は、緑谷・麗日のヒーローチームと、爆豪・飯田の敵チーム。
なかなかに度肝を抜かれる展開だったが、結果だけ言えばヒーローチームの勝利だった。

いやぁ、緑谷くんは相変わらず無茶するよね……。
麗日さんも個性のキャパオーバーで気持ち悪そうだし、勝ったのに満身創痍なヒーローチームに複雑な心境になる。

それにしても爆豪くんが心配だ。自尊心も高すぎると、折れたときが怖いから。
講評の時間、八百万さんの完璧な発言を聞きながら、ちら見。爆豪くんはグッと唇を噛みしめていた。
大丈夫かなー。お節介だろうが気になる。

場所を変えて二戦目、三戦目……。
皆、それぞれの個性を生かし、善戦を繰り広げた。まだまだ荒削りで、未熟な面も多いけど、一戦一戦が見応えのあるものだった。

若者たちの頑張りに、おじさん、年甲斐もなく火がついちゃったよ?



「ぃよーし、皆おつかれ! 残すは雨宮少女だな!」



オールマイトがきらーんと告げる。
うおお!だの、ついに!だの、クラスメイトから声が上がった。



「真咲ちゃん、がんばってね!」

「あのオールマイトが相手なんだぜ! 後で感想教えてくれよなっ!」

「思いっきり行けよー!」



応援を受けて、モニタールームを出る。
今回の指定はDビル。なんかDに縁があるな、入試のときもD会場だったし。

人数の関係で、他の皆は2対2だったのに対し、私はオールマイトとの1対1。
くじ引きの結果だけど……なんとなく、仕組まれたか?と感じてる。
今日、ずっとチラチラ見られてたし。コスチュームに着替えてからは、特に。
まぁ、この格好、もろにアルカナだしね。気付かれたかな。

私がヒーロー。オールマイトが敵。
訓練とはいえ、平和の象徴が敵とはね。



『さあ、始めようか!』



耳に付けた小型無線から、低いがテンションの高い声が聞こえる。
ビルを見上げた。さて、行きますか。

気配を探りながら侵入する。
オールマイトは一人だから、奇襲は考えていない。核を守っているだろう。
攻撃は最大の防御ともいうが、この場面で核を守らないのは得策ではない。オールマイトなら……トシなら、ぜったい。

ほら、ね?



「来たな、ヒーロー!」



目の前の巨体がニッと笑う。
イヤだよこんな画風の濃い敵……。

手始めに、と軽く床を蹴り、正面から突撃した。
それなりのスピードだと思うのだが、オールマイトは笑顔を崩さない。
ムカつく〜。



「おっと!」



目の前でスピンを入れて、左から脇を抜け━━る直前に、大きな腕に止められた。
チッ、そう簡単には無理か。

そのまま、本格的に確保される前に後ろに飛び退く。じり、と間合いを測った。

昔と同じ、筋骨隆々な姿を眺める。
15年。確実に歳を重ねてはいるが、かつて隣に立った男の姿だ。胸熱ってやつ。
懐かしさに思わず目を細めると、ふと、オールマイトと目が合った。



「━━君は……」



何かを言おうとしたのを遮るように、再び正面から突撃する。
今度は、右。
止めようと延びる太い腕を避けて、体勢を低く。首もとのネクタイを緩め、黒く細長い捕縛武器を狙いを付けて伸ばす。
狙ったのは右耳、の小型無線機。

カランカラン、と音を立て地に落ちたそれを見て、捕縛武器を回収。



「何を……」

「内緒話、しません?」



笑いながら言ってやれば、黙り込む巨体。その表情に、先ほどまでの笑顔はない。

オールマイトの小型無線は、モニタールームに通じている。あれ付けたままだと、会話が全部筒抜けになっちゃうからね。
何を話すか分からないけど、秘密にしておきたいこともあるし、さ。



「……私には、かつて、相棒がいた」



普段とは違う、ローテンションで切り出した巨体。
相棒ね、はいはい。知ってるー。



「賢しい敵との戦闘中、人質となった市民を守り、彼はその尊い命を落としてしまった。以来、私に相棒はいない。あのヒーロー以外に考えられない。それほどに強く、心優しく……尊敬するヒーローだった」



褒めすぎじゃね?
背中がむず痒くなる。

……でもさぁ。



「過去形なの?」

「! まさか! もちろん今でも尊敬しているとも!」



だから聞かせてくれないか、と、オールマイトは続けた。



「君は、あのヒーローの……私の先輩、アルカナの━━」



向けられる視線は、悩むのをやめたように真っ直ぐだ。
言葉を探すように、ぽつりぽつりと発せられる問い。向き合う時が、来たのかな。



「━━━━娘さん、だろうか?」



真剣な声で紡がれた疑問を、正しく認識するのに数秒。

娘?

むすめ。

一拍後、私の大爆笑が響いた。


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