「戦闘訓練のお時間だ!」
オールマイトの声が響く。
入試でも使った市街地演習場。ずらりと並んだクラスメイトの皆、個性的なコスチュームが目にも賑やかだ。
一番大切なのは機能性だと思うけど、見た目のインパクトも重要じゃないとは言えないしね。
ふと、オールマイトが笑いを堪えるように震えたのが目に入った。
彼の視線の先を追うと、目に入ったジャンプスーツ。顔を覆うマスクには、なんかこう、既視感のある耳?が……
……ああー、緑谷くんか。それオールマイトイメージか! なるほどな!
熱烈フォロワーだな君は!
わかりやすい……これはトシ、彼のこと可愛くて仕方ないでしょうなぁ。
視界の端で、ヒーロー科最高と親指を立てる峰田くんは、あえて無視をした。健全な男の子ですね。
「先生! また、市街地演習を行うのでしょうか?」
元気良く手を挙げて発現するのは飯田くんだ。
オールマイトがくるりと振り返り、彼を見る。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!」
ふむ、なるほど?
敵とヒーローの戦闘は、屋外で目にする機会が多い。それは事実なのだが、凶悪犯の出現率は、実は屋内の方が多い。
監禁や裏商売……真に賢しい敵は、屋内に潜む。
それを見据えての訓練だろう。
ふむふむ、やはり、なかなかやりおる。
告げられた訓練内容は、敵組とヒーロー組に分かれての、2対2の屋内対人戦。
「勝敗はどうなるんですか?」
「ぶっ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
次々上がる質問に、オールマイトはぷるぷるしている。聖徳太子ぃいいとの声が聞こえた。
大変だな、がんばれ先生。
設定は、こうだ。
敵がアジト内に核兵器を隠している。ヒーローはそれを処理しようとしている。
なんともアメリカンな設定だが、可能性がゼロの御伽噺な訳でもない。これほんとにトシが考えたのかな。
「ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収すること。敵は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること」
小さなカンペをのぞき込んで説明する巨体。やっぱ誰かに考えてもらったな、この設定。
相澤先生、だろうか? いやでもあの人ならこんなアメリカンな設定とか作らないだろうな……「2対2で戦え」くらいな気がする。
コンビと対戦相手は、クジで決めるらしい。
適当なのかと声を上げた飯田くんに、プロヒーローは即興で他のプロと組むこともあるから、と緑谷くんがフォローを入れる。
けど、トシがそこまで考えてるとは思えないね。
ああ見えてあの平和の象徴、結構適当なとこもある奴だよ?
着々とコンビが決まっていく中、私はペアがいなかった。解せぬ。
「雨宮ちゃん、ペアがいないの?」
「うん……まあ、21人だから、誰かしら余るとは思ってたけど」
自分とはね。
どうするのかな、2対1か?と眉間に皺を寄せていると、明るい声が掛かる。
「おっ、ペアがいないのは雨宮少女だな?!」
「先生、真咲ちゃんはどうなるんですか?」
麗日さんの問いかけに、オールマイトはふっふっふと笑う。
え、待って何その笑い。
「ペアがいないアナタはラッキー! 雨宮少女は私と対戦してもらう!」
「……え」
ええええええー!と大合唱。
まさかそんな、だの、オールマイトとサシかよ?!だの、口々に反応している。
ナンバーワンヒーローに直接挑む機会なんてないからね。羨ましがられる気持ちも分かる。
びしばし視線が刺さるんですよ! ご、ごめんね!
なんでこうなった。まさにこの一言に尽きる。
「真咲ちゃん、いーなぁ!」
「素晴らしい運ですわ!」
「はは……」
遠い目で笑うしかない。
ちらりと目をやった先で、オールマイトがこちらを見ていた。……なんだ?
ニコッ(きらーん)と笑いかけられたので、曖昧に微笑み返しておく。
不安だ。