アルカナの娘 | ナノ




翌日から授業が始まった。
一限目は英語。ヒーロー科といえど高校は高校、基礎学力は大事です。



「エビバディハンズアップ盛り上がれー!」



盛り上がっていいのか。
教壇に立つのはボイスヒーロー、プレゼント・マイクだ。こんだけボリュームがあると居眠りも難しいな。

いくら偏差値79と噂される雄英高校でも、高校一年生の英語。レベルは高いが、何せ二回目ともなるとね。余所事考える余裕があるんですよね。

━━思い返すのは今朝の出来事。
下駄箱で靴を履き替えて、長い廊下を歩く。向こうからやってきたのは、今日も黒づくめの相澤先生だ。
昨日と服一緒だけど、家帰った? ヒーロースーツ何着も持ってるのかしら……。

とにかく、先生と擦れ違うのに無視する訳にもいかない。



「おはようございます」

「はいおはよう」



雷に打たれたかと思った。
挨拶が返ってくるとは思ってなかった。

何でもない顔で通り過ぎてから、チラリと振り返ってみる。相澤先生はふらりと歩いていた。
なんなの彼は……あれできちんと生徒と挨拶するとか……ちゃんと先生じゃん……!

ねえ待って、あの子、本格的に可愛い。
30歳だっけ。私からしたらだいぶ年上のお兄さんだが、俺からしたらだいぶ年下の男の子だ。
なんだろうこの後輩がんばってる!可愛い!な感覚は……!

悶々と考える私を余所に、クラスの皆は何となく気が抜けたみたいな感じだけど、君らこれが本分よ? 俺みたいなおっさんと違って、学生の本分だよ勉強は!

昼食を挟んで、午後はお待ちかねのヒーロー基礎学。
否応無しに期待が高まってる。あ、私じゃないよ、皆の話ね。



「わーたーしーがー!」



響く低音に、皆の目が輝く。



「普通にドアから来た!」



ガララッと音を立てて開かれたドアから、コスチュームに身を包んだ巨体が現れる。
教室内がざわっと盛り上がった。



「オールマイトだ! すげえ、ほんとに先生やってるんだな!」

「銀時代のコスチュームだ!」



画風が違いすぎる、と誰かが呟いたが、確かに。濃いわ。
しかし、コスチュームに名前とか付いてるんだなぁ。銀時代か。他のにも名前付いてんのかね。

ヒーロー基礎学は、ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目。確か、単位数も最も多いはず。



「早速だが今日はコレ!」



オールマイトが掲げたカードには、BATTLEの文字。
おぉ、初っ端から戦闘訓練か。
室内の空気が、オールマイトの登場とはまた別の様子でざわついた。

それに伴ってこちら!とテンション高くオールマイトが壁を指さす。
ガコンと動いたそこから、番号のついた棚が現れた。
おおっ、ハイテクじゃん進化してるー!



「入学前に送ってもらった個性届と要望にそって誂えた、戦闘服!」



おおー!と歓声があがる。
着替えたらグラウンドに集合!と言い残し、一旦解散。各自、自分のコスチュームを手に更衣室へと移動する。

要望。
私は、シンプルに一言だけ書いた。さて、どうなったかな?
期待が半分、不安が半分と言った心情で、いざご対面。
……そうきたか。



「わぁ! 真咲ちゃん、かっこいいね! エージェントって感じ!」



声は聞こえるが姿は見えない。個性“透明”の葉隠さんだ。
見えないってことは、あなた今全裸ですね?!
聞けば、彼女のコスチュームは手袋と靴の二点。透明人間としては正しいかもしれないが、年頃の女の子としてはどうなの……!

私が要望したのは「アルカナ」の一言。
用意されたコスチュームは、スーツだった。
アルカナの戦闘服はスーツだったから、間違ってない。なぜスーツだったかって、当時の俺が戦闘服と聞いてスーツしか思い浮かばなかったからだよ。
スーツは男の戦闘服!

実は超ストレッチ素材だったり、耐火耐水性に優れてたり、電気も通さなかったりと万能なのだが、見た目は正しくスーツ。詳しく言えば細身の黒スーツだ。
シャツはグレー。ネクタイは黒。
このネクタイ、捕縛武器になります。

これ作った人、アルカナのコスチューム作った人と同じなのかなー。違うのなら、よく調べたと言いたい。
ただ、当時と違う点が一つ。

『女の子仕様にしておきました!』

なんでスカートにした!? 
明らかにパンツスーツのが動きやすいだろ?!

女の子だから張り切っちゃったぜ、とかそういうノリなのかもしれない。
その証拠に、更衣室にいるクラスメイトたちは皆ギリギリを攻めているようなコスチュームが多い。
八百万さんとかがっつり前開いてるんだけど、それ大丈夫なの……?
っていうか今時の子って、露出とか気にしないのかなぁ。

私がカルチャーショックを受けている内に、皆は着替え終わったらしい。
んん、眼福。



「行くわよ、雨宮ちゃん」

「あ、うん」



これから先もこのスタイルで行くなら、早く動きを確かめたい。コスチュームの修正指示を出すにしろ、動作確認は必須ですからね。
そういう意味でも、戦闘訓練はぴったりの授業だろう。トシめ、意外にやりおる。

15年の人生で一番短いスカート丈を気にしつつ、更衣室を後にした。


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