アルカナの娘 | ナノ




下校時間。
生徒がチラホラ歩く中に、クラスメイトの後ろ姿を見つけて近寄った。
良好なコミュニケーションを築いていかないとね!



「みんな、駅まで? 一緒に行ってもいい?」

「雨宮さん! もちろん、一緒に帰ろー!」



麗日さんが笑顔で迎えてくれる。
共にいるのは、緑谷くんと飯田くんだ。一見つながりの見えない三人組だが、結構仲良しっぽい。



「雨宮くんか。個性把握テストでもなかなか活躍していたな」

「ありがとう。飯田くんも、50m速かったから吃驚したよ」



飯田くんの個性はエンジン。走る競技では、まさに水を得た魚だった。

改めて自己紹介を交わした私たち。
そういえば、と三人を見やる。



「何の話をしてたの?」

「あっ、そうだ、雨宮さんは知ってる? オールマイトの相棒、伝説のヒーローの話!」



緑谷くんの顔がイキイキと輝いた。
後ろで、麗日さんと飯田くんが、あちゃーとでも言いたげにこちらを見つめている。
えっなに、掘り返しちゃいけなかった?



「意外と知られていないんだけど、オールマイトには昔、相棒がいたんだ。あのオールマイトの相棒だよっ? 素顔も個性も不明、多分年齢はオールマイトより上かな。あんまり動画も残ってなくて……だから知らない人が多いのかなぁ。オールマイトの学生時代の先輩だって説もあったけど、真偽はまだ決着がついてないんだよ。阿吽の呼吸だったらしいんだけど、15年前くらいに敵から市民を守って亡くなってしまったって言われてる。でね! その伝説のプロヒーローの名前が、」

「……アルカナ」

「そう! アルカナ!」



芸か、と突っ込む間もなく続いた彼のヒーロー知識。
言葉がツラツラと出てくる様子からは、今日のオドオドしていた彼と同一人物かと疑ってしまうくらいだ。やっぱりこの子、ヒーローオタクだな。

そんな昔のヒーロー、よく知ってるなぁ。



「雨宮くん、知っているのか?」

「私たち知らなかったよー」

「雨宮さんも、ヒーロー好きなんだね……!」



はは、と曖昧な笑いを返す。



「アルカナ……神秘のヒーロー、か。きっと正義に溢れた素晴らしいヒーローだったんだろう」

「オールマイトの相棒だもんね! どんな人だったのかなぁ」



はっはっはっ。

━━━━“俺”だよ。

オールマイトの相棒、アルカナ。
いつの間に伝説になったのかは知らないが、私の知る限り、あいつの相棒を勤めた「アルカナ」は“俺”だけのはずだ。

俺はオールマイトの先輩で、卒業してからはフリーのヒーロー、あいつが独立したら相棒としてプロをやっていた。
自分で言うのもなんだが、それなりに強かったと思うよ。

でも、三十路を越えたある日。

油断したつもりはなかったが、敵の襲来を受けた際、負傷が元で死んだらしい。
なんでらしいかって、気付いたらおぎゃあって産まれてたんだもの。詳しくは知らん。

あのまま生きてたら45かー、おっさんだな。今は15のぴっちぴちJKだぜ!
……言ってて悲しい。なぜって、中身は45のおっさんだからね……。
身体は歴とした15歳の少女だけど、前世の記憶も合わせれば45歳のおっさんが中身。
これでJKって胸を張れるかって言われたら、まぁ時と場合によるかな! 
必要な時はどんどん張ってくけどね?

短い前世だったが、ヒーローとして活動して落とした命に悔いはない。



「明日のヒーロー基礎学、楽しみだね!」

「あのオールマイトが教壇に立つ……大いに勉強させていただきたいものだな」



駅が見えてきた。
明日はヒーロー基礎学。飯田くんの言うとおり、明日の担当教諭はあのオールマイトだ。

私、というか俺の中では、ナンバーワンヒーローでも平和の象徴でも、トシはトシなんだけど。



「じゃあ、また明日ねー!」



あいつがちゃんと授業が出来るのか……実に楽しみだ。


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