一人目の時は、お互いに混乱のまま時が過ぎていった。

コーポVenit DC931の管理人であるリオンが遠い目で思い出しているのは、一人目の住人を受け入れた時のこと。
そのとき、コーポはまだ一軒家だった。
もともとは、ヒソカの師匠の持ち家。そこを拠点に活動していた彼女とヒソカが“探偵世界”に渡るときに、無人となった家の管理を任されたのがリオンだ。
借家の気分で住み込んでいたある日、ふらりとやってきた件の彼女は意識のない男性を一人、抱えていた。



「一人目でーす」

「一人目!?」



増えるんですか?!と叫んだのは、リオンの記憶に新しい。
そうしてやってきた一人目の住人は、目を覚ました時点でひどく混乱していた。無理もない。どのような経緯かは分からないが、目を覚ましたら知らない場所にいたのだから。



「俺、なんで……爆弾が……っ」

「お兄さん今日からここに住むんで! 二階の部屋使ってくださいね! 必要なものは後々揃えましょう!」



物騒な単語を口にし出した男を無理矢理遮り、部屋に押し込んだ。咄嗟のことだったがお互いに混乱するしかないあの場では最適解だったかもしれない。違ったかもしれないが。
幸か不幸か元々順応性の高かったらしいその男は、暫くすると「お世話になります」と笑ってこちらでの生活を開始した。

これが一人目の住人、ケンジである。



「うっそだろ松田!?」

「っ、萩原……!?」



二人目も男性だった。ケンジと同じく、意識のない状態で「二人目でーす」と運ばれてきた。
とりあえずとリビングに寝かせた彼を見たケンジが叫んだ途端、男は意識を取り戻して覚醒した。
そこからは怒濤の混乱タイムである。



「はいはい貴方の部屋も二階でーす! ケンジさんの隣!」



知り合い同士で話し合って落ち着いてもらおうとの魂胆で部屋に押しやった。しばらくどたばたしていたが、やがて時間が経つと、むっすりと表情を隠さないままだが大人しく生活を開始したのだった。

これが二人目の住人、ジンペー。



「やあ。君が管理人さんかな」



三人目は、にこやかにやってきた。
ヒソカと共にやってきたその男性は、「よろしく」と笑って握手を求めてきたので印象深い。
意識があり、しかも混乱せずにやってくる住人は初めてだった。ヒソカがいることから、こちらについても何らかの話は通っているのだろう。
初日からふらりと外に出掛けたりもしていたし、ひょっとするとコーポにくる前からこちらの世界にいたのかもしれない。ヒソカとも親しげな様子であった。



「えーと、部屋は一階でいいですか? 私の隣になるんですけど」

「おや、可愛らしいお嬢さんの隣室とは、緊張してしまうね」



そう言ってウインクした三人目、トーイチ。



「俺はっ、確かにあのとき、死んだはずだ……っ!」



四人目の狼狽えっぷりはすごかった。
自分は死んだんだ、ここはどこだ、お前の目的はなんだ。警戒心MAXの混乱MAXで、何を言っても取り乱す男の相手は、正直言って疲れた。



「俺は死んだ……っ、死ななきゃいけなかった! なのに、ここはっ」

「はいはいあの世あの世」



面倒くさくなって適当に聞き流し、扉の向こうで聞き耳を立てていたケンジとジンペーに押しつけたのは記憶に新しい。



「お前もかよ諸伏ぃ!」

「連絡寄越さねぇと思ったら……何やってんだよ」

「えっお前ら何で!?」



ぎゃーぎゃー騒ぎ始めた三人を気にもとめず、自ら淹れた紅茶の香りを楽しむトーイチの姿まで思い出して、リオンは深く息を吐いた。

これが四人目、ヒロミツ。

あのとき適当に発した「あの世」というフレーズが、まさか今日に至るまで生かされる設定になるとは思いもしなかった。



「僕は、死んだんだよね……?」



不安そうにこちらを見上げてきたのは、五人目にして初めての子どもだった。
ヒソカに担ぎこまれた後、暫く目を覚まさないので心配していたが、ようやく起きたときの第一声がこれだった。
このときの失敗は、側で見ていたのがトーイチだったことだろうか。子どもが起きたと他の住人に話をしている間にどんな説明をしたのやら、次にリオンと顔を合わせた時には、子どもはひどく真面目な顔で頭を下げた。



「生まれ変われるまで、お世話になります」



事態が飲み込めなさすぎて言葉に詰まったものだ。

ここは死後の世界。
前世に未練を持つ人間が、転生を待つ間暮らすのがこのコーポ。
管理人であるリオンは死神。
たまに訪れるリオンの知り合いも死神。
……確かに面倒くさくなってあの世とは言いましたけども。まさかこんな設定が着いてくるとは思わなかったリオンである。

五人目のヒロキ。



「あれ、私、撃たれて……」



六人目が来る前に家は改装され、ここで今のコーポの形態になった。
唐突に増築されていく様子に、これは何かあるなと思った矢先の六人目である。初めての女性に、なるほどなぁとしみじみ思ったリオンだった。



「女の人が増えて嬉しい。ようこそー」

「え、あの、え?」



段々と投げやりになっていく自分に気付きながらも、どうしようもないリオンは早々に考えを放棄し、管理人の仕事を精を出した。
何せ初めての女性である。部屋の装飾から着替え、日用品に至るまで、今までのヤロー共と同じ扱いにはできない。そうしてせっせと世話を焼く内に、徐々に笑顔を見せるようになった女性に感動したものだ。



「志保もここに──いいえ、だめね。あの子には生きていて欲しいもの」



そう言ってアンニュイに笑う彼女は、ナチュラルにこの世界をあの世だと思っていて苦い顔しかできなかった。
貴女も生きてるんですが。喉元まで出かかった台詞は、なんとか飲み込む。せっかく落ち着いてきたのに、余計な混乱を与えたくなかったからだ。

六人目のアケミ。



「っ、ここ、は……っ!? 俺は死んだはず……?!」

「はいよーあの世へようこそー大人しく輪廻転生の沙汰を待てー」

「めちゃめちゃ雑になってる……」

「!? テメェ、スコッチ?!」



アイリッシュ、と呼ばれた七人目はヒロミツの知り合いらしく、暫く二人で話し合っていた。
説明が面倒くさそうなときは、あの世設定が便利。開き直ったリオンは悟った目でアケミの淹れてくれた紅茶を飲んでいたものだ。

それにしてもヤロー率が高い。そうぼやいた女性陣への配慮なのか何なのか、次は早々にやってきた。



「リオンさんっ! しっ死神、来た……!」

「え、早っ。ありがと、ヒロキくん。違う部屋行ってる?」

「あ……転生するまで、一緒に住む人だもんね……僕もお出迎えするよ」



ええ子や……。関西弁でしんみりしていると、ヒロキが死神と信じてやまない男がにっこり笑顔でコーポへと入ってきた。
傍らには一人の女性。新たな入居者──新たに救済された探偵世界側の登場人物キャラクター
オッドアイの瞳が、戸惑うように揺れている。なるほど八人目。



「やぁリオン 連れてきたよ」

「はいはーい、こちらコーポ Venit DC931!」



ようこそ、キュラソー!



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