「自由!」

「時間!」

「だぁ〜ッ!」



ひゃっほー!と駆けだしたお茶子ちゃんたちの後ろ姿を見つめて微笑ましくなる。
若いって、いいねぇ。

今日は海難救助訓練。
いやぁ、訓練用にビーチまであるとはね。
訓練用と聞いていたので、波の出るプールみたいなものかと思っていたら、ところがどっこい本当に海だった訳ですね。
我が母校ながら雄英やばいなぁ。



「三十分後にバスに乗ってない奴は置いてくからな」

「「「はーい!」」」



相澤先生の言葉に良い子のお返事をして、皆は思い思いに浜に散っていく。
バスの待ち時間があるからとはいえ、こうやって少しでも遊ばせてくれるんだから、なんだかんだ言って相澤先生も甘いよね! 

今日も黒一色の先生は、私たちの荷物がまとめて置いてある近くで、もそもそと寝袋にくるまってしまった。
ええー……?



「雨宮、どした?」



私が微妙な顔をしていたからだろうか、上鳴くんが声を掛けてきた。
ちらりと見上げて、浜辺に転がる寝袋を指さす。



「なんじゃありゃあ……相澤先生か」

「熱中症にならないといいんだけど」

「日陰でもお作りしましょうか」



隣にきたのは百ちゃんだ。
個性が発動しやすいようにと、布面積の少ない水着が眩しいです。

……こら、上鳴くん、ガン見止めよう。気持ちは分かるけど、止めよう?
後ろで「けしからん我が儘ボディだぜヤオモモ……!」とか言いながら鼻血出してる峰田くんみたいになる前に、止めよう?

ドルンドルンと大きなパラソルを“創造”した百ちゃん。ちゃんと斜光仕様のようで、陰に入ると大分涼しい。
すごいな、こんな構造も頭に入れてるのか……。改めてスペックの高さを知ったわ。



「真咲ちゃーん!」

「ヤオモモー! バレーやんない?」

「あ、はい! 参りますわ!」



少し離れたところから響香ちゃんも透ちゃんに呼ばれ、百ちゃんはパッとそっちに振り返る。
返事をしてから、どうなさいます?とこちらを向いた。



「先生にパラソル届けてから参加するよ」

「分かりました。では、これを。よろしくお願いいたします」



百ちゃんからパラソルを受け取る私の横で、上鳴くんが「俺も誘えよー!」とバレー組の方へダッシュしていた。
元気ですなぁ。

ヒラヒラと手を振って、パラソル片手に砂浜を歩く。砂浜ってなんでこんなに歩きにくいんだろうね。
じりじりと肌を刺す太陽光が憎い。
百ちゃんほどじゃないが、それなりに露出の多い格好だ。焼ける。



「蒸し上がってませんか、先生」



やっとたどり着いた先で、ひょいと顔をのぞき込む。

……う、うそだろ。
涼しい顔で寝ている、だと……?
この日差しの下で、汗も欠かずに?!

それだけ疲れている、ということだろうか。
……しかし、まぁ、



「ここまで接近されても起きないって……」



湧き上がった悪戯心。
くすりと零れた笑みをそのままに、そーっとそーっと手を伸ばす。
あと二十センチ……十センチ……五センチ……、パシッと手を取られたのは、目測三センチの距離。

ふむ、触れなかったか。髪の毛耳に掛けてあげたかったのに。



「……何してんだ」

「先生に差し入れです」



ニコリと笑って、寝袋が陰に覆われるようにパラソルを設置する。
うん、やっぱり涼しいな。



「水分取ってくださいね」

「お気遣いドウモ」



ちらりとこちらをみた先生は、ぽりぽりと頬を掻いた。
そんな様子の先生に手を振って、向こうで盛り上がりを見せるバレーに参加するべく踵を返す。



「……あー……雨宮」

「はい?」



背後からの呼び止めにくるりと振り返った。



「上着、あるんなら着とけ」



焼けんぞ、と気だるげな声で言われ、頷いた。
……ん? そんだけ?
思わず首を傾げると、相澤先生はもそもそと寝袋に潜ってしまった。

そんだけ……らしいな。
呼び止めてまで生徒の肌の心配をしてくれるとは……優しいなぁ先生……。

有り難い忠告通りに上着を羽織って、さーてバレーバレーと今度こそ足を向ける。



「爆豪、いけ!」

「死ねや!」

「バレーの掛け声じゃなくないッ!?」



ドガァンッと響いた爆音と、熱風。っていうか爆豪くんバレー参加してるんだね。

思わぬ砂嵐にギュッと目を閉じるが、思っていたほどの衝撃は来ない。
おや?と目を開けると、目の前がクリスタルに覆われていた。



「平気か?」

「あぁ、轟くん。ありがとう、助かったよ」

「いや」



クリスタルじゃなくて氷だった。
氷の壁で砂塵を防いでくれた轟くんに感謝の意を述べて、二人でバレー組の方へと向かう。

砂浜の爆発は流石に大ブーイングだったようで、爆豪くんがコートの外に出されてワナワナしていた。



「あっ真咲ちゃんやっと来たぁー!」

「遅くなってごめん。入れてくれる?」

「もっちろん!」



笑顔の眩しい三奈ちゃんに腕を引かれ、コートに入る。向かいのコートには同じく轟くんが引き入れられていた。

さてさて、バスが出るまで、あと何分かな?
青春の一時、楽しまないとね!



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