背後は壁。
目の前には褐色の肌のイケメン。
絶賛壁ドンなう!

なんですが、



「俺とあいつ、どっちの味方なんだ!?」



残念。まったくときめかない。
なぜって、眉を吊り上げた零くんがキッと私を睨みつけているからだ。怖いよ!

公安の仕事だったのか、スーツ姿の彼を我が家で出迎えたのが少し前。
目の下の隈が濃いなー徹夜したのかなーと思った次の瞬間には、もう壁ドン体勢でした。



「あいつ、って?」



薄々、というか結構な確率で当たりだろう見当はついているけど、一応聞いてみた。
零くんの綺麗な目がますます険を帯びたのを見て、選択肢を間違えたことが分かった……けど、もう言っちゃったし?



「あのFBIに決まってるだろう!」



ですよねー。
零くんがこんなに感情を露わにするなんて、ほぼほぼ赤井くん絡みに決まっている。

大好きだもんねぇ、なんて、本人に知られたら絶対ものすごく怒られることを考えながら、呆れた顔を作ってみせた。



「赤井くんのこと?」

「そうだ。セレナはあいつと俺、どっちの味方だ!?」



どっちって。
……どっちでもないけど。

困惑する私の表情に気付いたのか、険しいばかりだった零くんの目が、傷ついたように歪んだ。
ちょ、待って。なになに、何なの。

私だって別に、可愛い子を虐める趣味はない。
……いや、そりゃあね? 反応が可愛くてからかうことはあるけども、ね?



「零くん、ちゃんと話して」



両手を彼の頬に添えて、ぐいっと顔を引き寄せる。至近距離から真っ直ぐに瞳をのぞき込んだ。
その距離に、多少狼狽えたらしい。

視線を彷徨わせた後、やや躊躇いながらも正面から見つめ返される。
今のところ、零くんを素直にさせるにはこれが一番いい。経験則です。



「……セレナが」

「うん」

「あいつと、仲がいい、から」

「うん?」



思わず首を傾げた私に、零くんの視線が下がる。
何言ってるのこの子。
たぶん、自分でも「何言ってんだ」と思ってるんだろう。耳が赤い。

仲がいい。仲がいい……?
私と赤井くんの関係を言葉で説明するのはなかなか難しいが、たぶん、「知り合い」とか「顔見知り」というカテゴリーだと思う。
彼と仲良しなのはヒソカだ。何故か馬が合うらしい。
ヒソカに誘われて我が家にやってくるから私とも顔を合わせるのであって、それ以外で交流はない、と思うんだけど……。



「なんでそう思ったの?」



問いかけても零くんは答えない。視線も上げない。
むーん、困りましたね。

これは、あれかなー。
連日のお疲れ具合がピークに達して、精神的にも参っちゃってる感じかなー。

やれやれ。
溜め息を吐けば、俯いた肩がびくっと跳ねた。



「あのねぇ。どっちの味方かって言われたら、正直どっちでもないけど」

「……あぁ」

「仮に二人が本気で衝突することになったとしても、私はどっちにも加勢しないよ。両方無力化させるだけの力が私にあるのは、分かってるよね?」

「……分かってる」

「それでも。守ってあげたいなぁって思うのは、零くんだよ」



ゆっくり顔を上げた可愛い子の目尻を、そっと親指で撫でる。
瞳が揺れて、じわりと赤くなった頬が愛おしい。



「……情けないな、俺は」

「不安なら言いなさいな。ちゃんと、安心させてあげる」



ね、と微笑んで、何か言い掛けた唇を塞いだ。
こういうときは黙らせるに限る。

最後にちゅ、と音を立てて離れると、先ほどまでとは比べものにならないほど顔を赤くした零くんが睨みつけてきた。
かわいい。



「くそ……イケメンすぎる……!」

「イケメンに言われてもなぁ」



拗ねた零くんを寝かしつけるのは簡単だったとだけお伝えしておこう。
甘やかしてやれば落ちるのだよ。ちょろいぜ29歳!



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