なんでこうなった。
まさにその一言に尽きる。頭を抱えてうなだれながら、盛大に嘆いた。

気付けば外・島・人いない、の三コンボ。白い砂浜は綺麗だけど、残念ながらこんな場所で目覚める心当たりがないですね。

同じように砂浜で目を覚ました四人で視線を絡ませ合う。皆、微妙な顔してる……。



「わぁ、びっくり」



最初に口を開いたのは快斗だ。
なんだその感想は……!



「ほんとにな」



一言で返した赤井さんは苦笑気味だ。
快斗も赤井さんも、ほんと、私やヒソカと付き合いだしてから不思議耐性が上がったと思うよ。
普通、夜に布団で寝たはずなのに、目が覚めたら何かよく分からない砂浜にいたらパニックになると思うよ?
もしくは夢だと現実逃避するか、ね。



「一緒でよかった……」



取り出した携帯は圏外の表示。
ここどこ?

綺麗な砂浜だけど、全然心躍らない。だって、全くといっていいほど、人の気配がないんだもの。
無人島? 私たちいつの間に漂流した?!



「セレナの念かな?」

「どうだろう」



ヒソカに尋ねられ、首を傾げる。
赤井さんや快斗にそんな力はないだろうし、ヒソカにも移動系の能力はない。となると私が原因の可能性しかないのだが、如何せん無自覚です。体調が悪い訳でもないし、オーラを持て余してる訳でもないはずなんだけどな。



「どうする?」

「とりあえず現状把握しないことには、何とも」



私の念を使おうにも、ドアがないしなぁ。
今のところ、この島に建造物があるようにも思えないし、さてどうしたものか。

頭を悩ませる私を余所に、なんだか心なしか男三人が楽しそうだ。特に快斗。
なぜだ……どうしてそんなワクワクした顔をしてるんだ……。



「ボク、ちょっと見て回ってくるよ」



ヒソカの申し出に頷く。ま、妥当よね。
現状把握のためにも行くべきだが、何が潜んでいるかも分からないので、一般人である二人を連れては行きたくない。
かといって二人を置いていくのも論外だ。

私が行ってヒソカが残ってもいいんだけど……まぁ、私が行くって言うとかなりの確率で「着いてく」って言いそうだし。赤井さんとか。



「任せた。私たちはこの辺見てるよ」

「ヒソカ、気をつけてね!」



快斗に見送られ、ヒソカはゆったり歩き出した。
そんなに大きくない島のようだし、一周見て回ってもさほど時間は掛からないだろう。

今日は学校休みだし、赤井さんは一日くらい連絡がとれなくても構わないらしい。それでいいのか社会人。

一日で帰れる保証もない、んだけど……不安にさせるから言わないほうがいいのかしら……。



「っわぁああッ!?」



不意に聞こえた快斗の悲鳴に意識を戻され、慌てて声の方を見る。
飛び退くような格好で、恐る恐る浅瀬を眺める姿にピンときた。一応、念のため確認はするけども。



「どうしたの、快斗」

「さ、さかな、魚が……!」

「ほー。釣り竿があればな」

「やだよ!?」



間髪入れず放たれた拒否に、赤井さんと目を合わせて苦笑する。

悲鳴の原因は、浅瀬を泳ぐ魚影が見えたからのようだ。なんというか、やっぱりって感じ。
快斗の魚嫌いは筋金入りだからね。



「セレナ、今すぐ魚どっかやって……」



そんな無茶な。
そんな思いで吐いた溜め息は、自然と深いものになった。正確に読み取ったと思われる赤井さんに小さく笑われる。

快斗を促し、場所を移動して歩くこと十分ほど。川を見つけた私たちはひとまず安堵した。
これでとりあえず、水はなんとかなる。



「あとは食料だな。何か食べられるものがあるといいんだが」

「木の実とかありそうだけどなぁ」

「……ねぇ、気のせいか、二人とも帰ろうとしてないよね?」

「赤井さん毒キノコとか分かる?」

「自信はないが……毒見は引き受けよう」



無視された!?
二人とも実は全く帰る気ないな?!

そして毒見なんてさせるわけないでしょうが!



「あぁ、いたいた。タダイマ」

「ヒソカ!」



腕に何やら抱えたヒソカが戻ってきた。
快斗の出迎えに笑顔で答えて、はい、と何かを手渡している。
首を傾げていると、こちらにも手渡されたのは瑞々しくておいしそうな果物。「喉が乾く頃かと思って」だそうだ。優秀だなうちの主夫……。



「どうだったの?」

「特に怪しい物は無かったよ。人間もいない。ボクらだけの貸し切りだね」



ウィンクしてみせたヒソカにげんなり顔を隠せない。
どうしてこの男三人はこうも楽しそうなのか……無人島生活とか不自由極まりないでしょうに。



ドア使えるのかな……」

「使えると思うよ。さっき念使ってみたけど、普通に使えたしね」

「あ、そうなんだ」



ヒソカの発言に心が軽くなる。よかった、それなら本格的にサバイバルの覚悟をしなくても良さそうだ。
しかし、同時に「ん?」と疑問が浮かぶ。

 

「じゃあ帰ればいいのに……なんで取ってきたのよ」



これ、と果物を掲げる。
帰宅の算段がついたのなら、一刻も早く帰ればいいんじゃないの。そう思って聞けば、ニコッと笑って返された。



「たまにはバーベキューもいいかなって」



バーベキュー……?
予想外の単語に頭が混乱する私を置いて、三人は楽しげに話を進めている。

砂浜に戻ると、いつの間にか火がおこされていた。細い木々を重ねて作られた焚き火の回りには、串刺しにした肉らしきものが火に炙られている。
……バーベキューだ……。



「すごい! キャンプっぽい!」

「用意してくれたのか」



ありがとう、と赤井さんにお礼を言われて満足げなヒソカ。
なにしてんだよ……どうやって肉取ってきたんだよ……というか何肉だよ……短時間で準備良すぎだろ……あぁもう、突っ込みどころが多すぎて裁ききれない!

いち早く焚き火の前に陣取った快斗が、早く早くと私たちを急かす。海が近いが、波打ち際からは離れた場所なので抵抗ないみたい。そういうとこ気遣いできる子なんだよね、ヒソカ。
火を囲むように座り込んで、丁度良く焼けたお肉をいただいた。おいしいです。
━━何肉なんだろう……。

誰もいない砂浜。
ワイルドだけどおいしい食事。
誰にも邪魔されない、私たちだけの空間。



「バカンスか……」



思わずこぼしたら、隣にいた赤井さんにぽんぽんと撫でられた。

帰りはこれまたいつの間にかヒソカが木でドアっぽいものを作っていて、私の念で帰ってきました。
なんだったのかな……まぁ、みんな楽しそうだったし、いいか。

……いいのか?



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