週末、天気は快晴。六花と猩影は二人で都心の遊園地にいた。
六花が「面白そう」と指を差したのは、猛スピードでの一回転が売りの絶叫マシン。
幸い、それほど並ばずに順番が回ってきた。
しかし。
猩影の身長が高すぎて安全バーが下がらないとして、乗車ができなかったのである。
「悪い……俺のせいで」
「気にしないで。仕方ないわ」
悄然とうなだれる猩影の腕を引きながら、六花は苦笑を零す。
猩影の身長は225cm。 人間では滅多にお目にかかれないサイズだ。
「逆身長制限とは、考えてなかったわねぇ」
「……乗ってくるか?」
「一人で? せっかく二人で来てるのに」
そんな寂しいこと言わないでよ、と告げれば、またもや悪い、と謝罪の言葉。
眉を寄せた六花は、ぐい、と猩影の腕を引いた。
「あのね、猩影」
立ち止まって見上げる。
昔、狒々の屋敷で初めて会った時ほどではないが、六花と猩影の身長差は大きい。
うんと見上げて、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「貴方とここを歩いている。それだけで楽しいの」
「言わせないで」と照れたように笑う六花に、猩影の頬も緩んだ。
気を取り直して歩き出した二人。
アトラクションに乗らなくても、遊園地という非日常な空間には心が弾む。
ふと、六花が考えるように呟いた。
「今日はなんだか、やけに見られるわね。猩影が目立つからかな?」
「割といつも見られてっけど、その台詞そっくりそのまま返す」
人並みはずれた長身の猩影と、京一の美貌と言われた祖母に引けを取らない容姿の六花。そんな二人が仲睦まじく歩いているのだから、注目を集めない訳が無かった。
周囲の視線を一身に浴びながら、二人はゆったりと園内を散策する。
「どうして急に遊園地なの?」
朝から思っていた疑問を、六花は小さく口にした。
嬉しいけど、と続け、答えを待つようにじっと見上げる。
「……六花が行きたがってるって、姐さんたちが」
そう聞いて、六花の脳内に浮かんだのは二人の妖の姿。
テレビで遊園地の絶叫マシン特集をしていたのを、氷麗と毛倡妓とでのんびりと見ていた。面白そうだね、とか、乗ってみたいな、とか。
世間話だったのにと苦笑する六花だが、胸が温かくなる感覚に、その笑みはゆるゆると広がっていく。
「でも、そうね。猩影と来れたら楽しいだろうなって、思ってた」
「親父じゃなくてか?」
「狒々ちゃんはめっちゃくちゃはしゃぎそうよね」
二人で出掛けるのを嗅ぎ付け、着いてこようとした狒々を置いてくるのも苦労したのだ。
狒々と二人で遊園地。想像できるようでできなくて、二人して乾いた笑いになる。
「親父はなぁ……なんつーか、良くも悪くも古い妖なんだよな」
「あー、うん。奴良組の皆に言えることだけどね。こういう遊園地より、山とか森が似合うっていうか」
「分かる」
普段はその妖たちに囲まれているが、今は二人。好き勝手言いながら、ふらりふらりと散策を楽しんだ。
カラフルなお土産が並ぶショップの前で足を止めたのは、猩影。
隣でひょこっとのぞき込んで、六花は彼の意思を汲み取る。
「この時間をお膳立てしてくれたお姉様方へのお土産、買ってこっか」
「あぁ」
「あと、今ごろ拗ねてる狒々ちゃんの分も」
「……あぁ」
するりと手を取られ、引かれるように歩き出す。
大きな手に安心と、胸の高鳴りを覚えて、六花は口元に笑みを浮かべた。
甘酸っぱい。
「……へへ」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
好きだなーって、思っただけ。
隠すことなく告げれば、ぴたりと止まる猩影の足。
繋いでいない方の手で隠された顔は、うっすらと赤かった。
「不意打ちはずりぃ……」
覚えとけよ、との捨て台詞に、明るい笑い声が弾けた。