(オールマイト視点)
「それじゃあ行くぜェ━━かんぱぁあああい!」
「「「かんぱーい!」」」
マイクくんの高らかな音頭で、雄英高校教師陣の飲み会は幕を開けた。
勢いよく生ビールのジョッキを飲み干すミッドナイトくんの隣で、私もウーロン茶のコップを傾ける。
各々がわいわいと語り始めた中、「ぷはぁ!」とジョッキを置いた彼女が、くるりとこちらを見た。
「ねぇねぇ、オールマイトさん!」
「ん? なにかな」
「オールマイトさんの相棒の話、聞かせてくださいよ!」
そう言って笑った彼女に、向かいから「おぉい!」とマイクくんの声。
どこか慌てたような声音に首を傾げる。
マイクくんの隣では、相澤くんが睨むようにミッドナイトくんを見ていた。
おいおい、女性にそんな目を向けるもんじゃないぜ。
「なによ、いいじゃない。どーせアンタたちも聞きたいんでしょーが」
「そりゃあ伝説の話を聞けるもんなら……っつーか! ダメでしょその話題は!?」
特段、タブーにしたつもりはないのだが、そういえば確かに皆は先輩━━アルカナについての話を振ってこない。
私も話さないもんな……いつの間にか、触れてはいけない話題になっていたようだ。
……恐らく、私自身、あの再会がなければ口にすることはなかっただろう。
「オールマイトさん!何でもいいんで!」
「ええ?うーん、そうだなぁ……」
思い出したのは、遠い日の出来事。
敵が暴れ、大規模火災が発生したとの通報を受けた私たちは、現場へ急行した。
目にしたのは、燃え上がるデパート。中では敵が立ちこもっているらしい。
「炎の個性かな。これ以上燃やされると厄介だね」
「私は正面から行くので、先輩は裏から頼みます」
「了解」
手早く分担を決め、揃って燃えさかる店内へと足を踏み入れる。
炎と煙を避けながら進んだ先に、人影。
敵だ!
「そこまでだ、敵よ!」
「ハッハァ! それはどうかなァ!」
追いつめたと思ったら、隠れていたらしい店員を引きずり出し、人質にとった。
しまった、油断した……!
「いやっ、離して!」
「うるせェ! 大人しくしてろォ!」
パンッと乾いた音が響く。
女性になんてことを……!
「大人しくすんのはお前だよ」
静かな声。
私の背後から延びてきた捕縛武器が、一瞬で敵の両腕を縛り上げた。
そこでハッと我に返り、捕まっていた店員の救助に走る。
「大丈夫かい?!」
「う、上に、まだお客様が……!」
店員自体に大きな怪我は無かった。しかし、その口から出た言葉の衝撃は大きかった。
店員をなんとか外の救急隊に引き渡し、先輩と二人、再び炎の中へと戻ろうとして……足を止めた。
先ほどより火の回りが早い。
これは……犠牲が免れない、かもしれない。
「こら、なんて顔してんの」
絶望にも近い感覚に血の気が引きかけたとき、私を引き戻したのはおでこへの衝撃だった。
で、デコピン……。
「いつもの矜持はどこいった? ヒーローが要救助者を不安にさせてどうする」
私より背の低い先輩は、その視線に呆れを含ませて私を見上げている。
そして溜息を一つ。
萎縮する私に向かって、ニッと口角を上げて見せた。
「ピンチの時ほど、笑うんだろ?」
その顔に笑みを浮かべたまま、先輩は先に足を踏み出した。
燃えさかるデパートに躊躇なく踏み込む後ろ姿を、慌てて追いかける。
「先輩っ!」
「今おまえにできるのは二つ」
くるりと振り向いた先輩は、ピッと指を二本立てて見せた。
「二つ……?」
「自分に自信を持つこと。そして、俺を信じることだ。できる?」
「っ、はい!」
「いい返事。行くぞ」
全員助ける。
「━━頼もしいヒーローの背中だったよ」
いつの間にかシンと静まりかえった個室の中で、私は懐かしい思い出を話し終えた。
聞きたがったミッドナイトくんやマイクくんだけでなく、13号くんやブラド君も聞いていたみたいだね。
もちろん相澤くんも聞いていたよ。
「木椰子デパート火災事件……!」
「あの奇跡の?!」
「あれだけの大火災だったのに、死者がゼロだったっていう……今でもたまに特番でやってますよね」
ワッと騒がしくなった面々に、やっぱり知られてないのかぁ、と感慨に耽る。
あの時、率先して動いたのは私よりもむしろ、先輩━━アルカナだ。
先輩、マスコミ対応とか「苦手だから」ってヒョイッといなくなっちゃうし……記録にもあまり残っていないんだよねぇ。
名声が欲しい訳じゃないにしても、もうちょっと、残っててほしいと思うのに。
「っていうかオールマイトさんの相棒かっこいい…さすがナンバーワンヒーローの相棒……」
うっとりした声のミッドナイトくんに苦笑が漏れる。
肩書きなんて、オマケでしかない。
先輩は、先輩自身が、そりゃあもう一等かっこいいのさ!
━━なんて、先輩が聞いたら呆れた顔をされるかな。
浮かんだのは、やれやれとでも言いたげな雨宮少女の顔だった。
「おーい消太? 何にやけてんだ〜?」
「……うるせぇ。黙って飲んでろ」
「飲むと言えば、アルカナは飲むより食べる派だったなぁ」
「オールマイトさん、その辺詳しく」
相澤くんはアルカナの話題だと食いつきいいよね!
面白いほど釣れた彼に笑って、続きを話すべく口を開いた。