「いや〜良かった! サンキューなセレナ!」



隣で黒スーツの男が破顔一笑、私を見る。
ご満足いただけたようで何よりですよ。

健康と医療の博物館。
東都大学の敷地内にある小さな博物館で、その名の通り健康と医療について展示を行っている。



「レオリオの役に立ったなら良かったよ」



見上げて言えば、立った立った!と笑って返される。

レオリオ=パラディナイト。
長身でちょっと老け顔……いや、大人っぽい(?)19歳。ゴンたちと同期のハンターで、今は医者を目指して勉強に励む青年だ。

「レオリオが勉強に困ってるみたい」とゴンから相談を受けた私だが、医学の心得なんて無い。お膳立てしてあげようにも何をすればいいか分からなかったので、直接聞いてみたんです。
レオリオが希望したのは「気分転換」と「臓器の勉強」。どうやって兼ねるんだそれ、と思わず突っ込んだ難しいオーダーだったが、探せばあるもんだよね。
ちょうど、ここの博物館で「身体を支える臓器の世界」という企画展をやってたんですよ。これ幸いと誘ってみたら乗り気だったので、喚んでみたわけです。



「違う世界だ、なんて言われた時は正直ビビったが……なんてことねーな!」

「でしょ。大して変わらないよ。ま、こっちのが平和かな」



ハンターとかいう人外生物がいないしね。
違ぇねぇな、って笑ってますけど、貴方もそのハンターの一人ですからね?

レオリオは、珍しくヒソカが認めたハンターの一人だ。まぁ認めたっていっても、強さじゃなくて……懐の広さ?可能性?だけど。
強さはねー、まだまだかなー。発展途上だよね!

これからどう化けるかなんて、誰にも分からないから。



「ところでよ」

「んー?」

「さっきから小せえ眼鏡のボウズに尾けられてんだが」



知り合いか?との問いかけに、頭を抱えたい思いでいっぱいになる。
っていうか抱えた。
小せえ眼鏡のボウズって、それ完全に名探偵じゃないですかーやだー。

ちらりと隣に目をやると、こちらを見下ろすレオリオの姿。
黒スーツ。銀のアタッシュケース。
うーん……完全に……。



「怪しい黒スーツのおじさんだと思われたんじゃないかな……」

「おじっ……ま、まぁ、あれくらいの子どもから見たら……いやでもおじさんっつーか……お兄さんだろ……?」



一張羅なんだがなぁ、と肩を竦めるレオリオに苦笑を返す。

と、そのとき。
甲高いブレーキ音、悲鳴。ガラスが割れるような衝撃音と、また悲鳴。
乗用車が一台、コンビニに突っ込んだようだ。

コンタクトを取るまでもなく、お互いに現場に走り寄る。
レオリオは一目散に運転席へと向かった。それを視界の端で捉えて、私はコンビニの店内へと足を踏み入れる。



「セレナ、トリアージ!」



乗用車から運転手らしき年輩の男性を助け出しつつ、レオリオがこちらに叫ぶ。

トリアージ、と言われましても。
あれでしょ、負傷者を重症度とか緊急度で分けて、治療の優先度の順位付けするやつ。
専門じゃないのでそんな難しいことできないよ?と思いつつ、店内をざっと見渡す。幸いにも怪我人は少なそうだ。
こりゃ順位付けするまでもないかな。



「どうだ?!」



運転手さんの処置を終えたらしいレオリオがやってきた。



「大丈夫そうだよ。そんなに怪我してる人いないから」



険しい目をして店内を見渡していたレオリオだったが、私の言葉で安心したのか、ほっと一息を吐いた。

……いや、そんなに信じてもらうとちょっと不安になるな。何度も言うけど私、こういうの専門じゃないから!
実は目に見えないダメージ受けてる人がいるかもしれないよ?!



「セレナが言うなら大丈夫だな」

「なんで信じるかな……」

「はぁ? なんでってそりゃ、セレナだからだろ!」



理由になってません!

レオリオは店内を回って、怪我をした人たちを入り口近くの一カ所に集めていた。処置しやすいようにかな。
運転手さんはぶつかった衝撃で意識を飛ばしたらしい。目立った外傷はないが、頭を撃っているかもしれないので油断はできないとのことだ。
到着した救急隊に同じことを話し、後は託した。ほら、私たち一般人だから!



「お兄さん、すごいねー!」



背後から聞こえた子供特有の高い声に固まったのは私だけ。
わ、忘れてたー!名探偵いたんだったー!

そんな私の心境なんて知らず、レオリオはくるりと振り返る。



「急に起こった事故だったのに、全然動揺してないしさ! まるで━━」



興奮してます!といった感じの声は、そこで一オクターブ低くなる。



「━━まるで、最初から知ってたみたいに」



あああああー見なくても分かるー!
今絶対、名探偵の眼鏡、キラリと光ってるー!



「なんだなんだ? ボウズ、何が言いたいんだ?」

「……なーんてね! でもお兄さん、すっごくテキパキ処置してたね!」

「そうか? まあ、慣れてるからなぁ」



や、やめてー!
これ以上名探偵の興味を引かないでー!

私の心の叫びなんてお構いなしで、レオリオはしゃがんで名探偵とお話ししている。



「あれれー? セレナ姉ちゃん?」



くっ、あざとい……!
生「あれれー」いただきましたよ名探偵……。私がいるのなんて最初から知ってただろうに、今気付きましたとでも言いたげな声を出すコナンくんに顔がひきつる。

……さて。
この、ロックオン!されてる状況、どうやって乗り越えたらいいんですかね?!



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